宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

軍事独裁って?『ブエノスアイレスの風』の時代背景


月の御曹司、初の東上公演!おめでとうございます!



紫吹淳主演で1998年に初演、柚希礼音主演で2008年に上演され、いずれも好評を博した作品の待望の再演。


1900年代半ばのブエノスアイレス。反政府ゲリラのリーダーで政治犯として囚われていたニコラスが、特赦により7年振りに釈放される。


軍事政権が倒れ、民主制となった祖国で新たな人生を歩み始めたニコラスは、ダンスの才能を買われ、タンゴ酒場の花形ダンサーであるイサベラのパートナーとして雇われることとなるが、そこへかつての仲間リカルドが現れ…。


新たな生き方を模索する男の姿を通し、人生の意味を問いかける物語を、ドラマティックなタンゴを随所に盛り込んでお届け致します。


梅田芸術劇場のHPの公演案内に出ている暁くんの仮写真と、元「反政府ゲリラのリーダー」のイメージがどうしても結びつかない(笑)


先行写真、ポスター、どうなるかな(ワクテカ)


反政府ゲリラで7年間服役していて、シャバに出てプロダンサーって、傭兵からスイーパーの冴羽リョウより、振り幅凄いな!とか


7年服役していたら身体がなまらない?アルゼンチンでは、受刑者の社会復帰プログラムにダンスのレッスンがあるのか?とか、


突っ込んでは野暮ですね。



紫吹淳、柚希礼音が演じ継いだニコラスと言う役は、「ダンサー暁千星」くんには何の不安もありません。


が、「演技者:暁千星」としては、劇団からとても大きな課題を与えられましたね。



1900年代半ばのアルゼンチン(ざっくりした時代設定やな)


1946年 アルゼンチンでペロン政権成立(典型的な軍事独裁政権)


夫人はミュージカル「エビータ」「アルゼンチンよ泣かないで」のエヴァ・ペロン


1955年 アルゼンチン軍事クーデターでペロン追放




劇団四季:ミュージカル『エビータ』:プロモーションVTR(2019年)



ポピュリズムの特徴

日本では、「大衆迎合」「衆愚政治」「扇動政治」、最近では「反知性主義」などと同じ意味で使われることも多いが、アメリカでは一般的にポジティブな意味合いで用いられることが多い。その反対に、ファシズムを経験したヨーロッパ諸国や日本などではネガティブに用いられる。



1900年代半ばのアルゼンチンは、現代で例えるとトランプ元大統領の頃のアメリカのような、カリスマ的人気を誇る指導者が、大衆迎合的な個人独裁を行っていた時代。


美しき大統領夫人エヴァ・ペロンは、軍人独裁の血なまぐささを中和した存在でもあり、アルゼンチンでは現代でも人気が高い。


つまり、当時の軍事独裁政権は、一般市民に忌み嫌われていたわけではなく、むしろ大衆からおおいに支持されていた時代。


一筋縄ではいかないニコラスという人物像


ニコラスは、そんな時代に反政府ゲリラ活動をしよう!と思う青年である。


おそらくある程度裕福な(大富豪ではなくても、大学に行けるような)家庭に生まれ育つが、社会体制に疑問を持ち、社会変革活動に身を投じるチェ・ゲバラみたいなキャラではなかろうか。(チェ・ゲバラは元々キューバ人ではなく、アルゼンチン出身の医師)


そんな闘争の世界に身を置いていた元ゲリラが、軍事政権が倒れ、民主制となった祖国で、新しい身の振り方を模索し、ダンサーという天職を見出す。


しかし、かつての仲間リカルドは、反政府闘争の無い社会での生き方を見つけられず・・・


現代の日本では、ジェンヌもお客も反政府闘争がある世界を知らない。


難しいお役だと思います。


「川霧の橋」では、ひとでなし清二を演じて、クズの極みの中に「ひょっとして、お光への思いは幸次郎へのあてつけだけでもないのかな」と思わせる切なさ?がちらついて、それはそれで興味深い人物像でした。


「反政府ゲリラがシャバに出たあとの人生」という難役を超えた先の、「演技者:暁千星」の新たなステージを楽しみにしております。