宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

ダークサイド上田久美子?「桜姫東文章」が凄かった



片岡仁左衛門と坂東玉三郎が、ファン待望の演目で36年ぶりに共演したことで、大きな話題となった、


令和3(2021)年4月と6月に上演された歌舞伎座公演「桜姫東文章」を撮影したシネマ歌舞伎を見てきました。




シネマ歌舞伎『桜姫東文章 上の巻/下の巻』予告





あらすじ

僧 清玄は、稚児の白菊丸と道ならぬ恋の果て心中を図るが、一人生き残ってしまう。


17年後、高僧となった清玄は桜姫と出会う。彼女は白菊丸の生まれ変わりなのか...。


一方、家宝の巻物「都鳥」を盗まれ御家没落のため出家を心に決めた桜姫には秘密があった。


かつて暗闇の中で自分を犯した男の子どもを秘かに産み落とし、今でも一夜の甘美な思い出として、その肌が忘れられずにいた。


ある日、腕に鐘の刺青のある男、権助とめぐり逢う。


権助こそ、桜姫の思う相手。再び権助に身を委ねる桜姫。しかしその密会が明るみになり...。

リンネ輪廻♬な物語


ちゃらりらちゃらりら♬ ちゃーちゃーちゃっちゃちゃーー♪(うたかたの恋のイントロ)



僧 清玄白菊丸、来週の月曜日、旅に出よう。


稚児 白菊丸あなたとご一緒なら、どこへでも。



海岸の崖っぷちにて



僧 清玄私たちはこの世では結ばれない。あの世で一緒になろう。お前は来世では女に生まれ変わって



どぼーん



僧 清玄:早っ!


私も・・・・



死ねない・・・




まわるまわるよ時代は回る♬



17年後



斜陽の吉田家の桜姫:私は生まれつき左手が開かない障害があり、家宝「都鳥の一巻」は盗まれ、父と弟も殺されました。


もうこの俗世はいやです。出家させてください。


僧 清玄:若いのに気の毒に。とにかく、念仏を・・・


すると桜姫の手が開き、「清玄」と書いた小箱が!それは稚児白菊丸が入水した時に握りしめていた形見!


僧 清玄:桜姫、おぬしは白菊丸の生まれ変わりであったか。


あの日別れた恋人たちが、生まれ変わって巡り合ったのか・・・


桜姫:




実は桜姫には秘密があった。


一年前屋敷に忍びこんで自分を強姦した男に惚れてしまい、腕に男と同じ釣鐘の刺青を彫っていた。


出家しようと心を決めた桜姫の前に、釣鐘権助という男が現れる。その男の腕にはあの釣鐘の入れ墨が!



桜姫:「ねえ、こっち来て」


そして2人は、愛の夜を迎えたのでした。



へ?



すったもんだの末、桜姫と密会したのは僧 清玄と決めつけられ、姫と 清玄は追われる身となる。



僧 清玄:姫、あなたは白菊丸の生まれ変わりだ。私の妻になってくれ!


桜姫:やだ。




紅子:いやいやいや、いろいろアカンでしょ。桜姫16歳の未成年でしょ。警察とか、心療内科とか、行政とかが対処すべき事態になってるでしょ。


管理人:昔はそんなもの無かったしね。


紅子:で、ヒロイン役の坂東玉三郎さんいくつ?


管理人:撮影当時(2021年4月)70歳。


紅子:えーっと。正直、アンタには、玉三郎さんが芸の力で、「私はまだ、何も知らない16の乙女だけれど♬ 私を待つ 素敵な権助♪」に見えた の?


管理人:正直、16歳には見えなかった。


でもさ、こんなお話を、現代のリアル16歳の子役に演じて欲しいとか思わないわ。


それこそ「警察とか、心療内科とか、行政とかは何をやっているんだ!」と、未成年の少女への犯罪とか児童虐待とかの話になって、娯楽として見るには重すぎるわ。


御年70歳のリアル女性ではない「女形」が、アタマより子宮で考えて行動しているとしか思えない16歳の「女の業」を、


60年以上かけて会得した「女形になる技巧」の限りを尽くして演じているから、


見ている方も「これは虚構だから」と割り切って、四世鶴屋南北が書いた奇想天外な「お芝居」に浸れたわ。


歌舞伎ってTV時代劇みたいなリアルな会話ではなくて、七五調の美麗なセリフを、女形独特の高い裏声で節をつけて唄うように語るから、オペラのアリアを聴いているみたいだったわ。



そういえば上田久美子先生、海外に留学されるとのことだけど、帰ってきたら、「オペラを現代に読み替え」ならぬ「歌舞伎の読み替え新演出」とかどうだろう?


上田先生、現時点では「桜姫東文章」の作者、鶴屋南北にちなんだ鶴屋南北戯曲賞を取りのがしているんだよね。


Wikiより


2014年に上演された、宙組シアタードラマシティ公演『翼ある人びと - ブラームスとクララ・シューマン -』が、第18回鶴屋南北戯曲賞の最終候補に残った。


2021年、月組公演『桜嵐記』が、第25回鶴屋南北戯曲賞の最終候補に残った。





その作風は、化政(かせい)期(1804~30)の退廃した世相を反映した凄惨(せいさん)な殺しと濡(ぬ)れ場を魅力とするが、本領はおかしみの茶番にある。


俳諧(はいかい)式の自由な連想で婚礼と葬礼を一体化するなどの奇想で、場面を次から次へと展開させて観客の裏をいく小気味のよさが売り物。


それが金井三笑譲りの緻密(ちみつ)な仕組みと十分な伏線、小道具の巧みな利用などによって筋立ての破綻(はたん)を免れている。



三島由紀夫は鶴屋南北の作風を


「南北はコントラストの効果のためなら何でもやる。劇作家としての道徳は、ひたすら、人間と世相から極端な反極を見つけ出し、それをむりやりに結び付けて、恐ろしい笑いを惹起することでしかない。


登場人物はそれぞれ壊れている。手足もバラバラの木偶人形のように壊れている。


というのは、一定の論理的な統一的な人格などというものを、彼が信じていないことから起きる。(中略)こんなに悪と自由とが野放しにされている世界にわれわれは生きることができない。だからこそ、それは舞台の上に生きるのだ。」


(三島由紀夫:「南北的世界」・昭和42年3月)



と評しているんだけどさ。上田先生、「宝塚ではこれはアカン」という作品を手掛けたくて退団されたんだよね。


宝塚でのように「一定の論理的な統一的な人格」を構築することから解放された今、鶴屋南北の新演出、どうでしょう。「バイオーム」で中村勘九郎さんとの縁もできたことですし。


七之助さんの桜姫で新演出、どうでしょう。