真風イズムここにあり!『MAKAZE IZM』感想
1公演1回しか見ないファンにも「わかりやすい」ことは大事なことだ
『MAKAZE IZM』を配信で視聴いたしました。
石田 昌也先の構成・演出は、奇をてらわず、余計な寸劇などを入れず、真風涼帆が体現した、ゆったりとおおらかなスタイルの男役芸の集大成を、じっくりと魅せてくれました。
オードソックスにショーの主題歌メドレーから始まり、
和ものショーのジャポネスクアレンジの衣裳で、
仁王立ちで故郷熊本の「田原坂(たばるざか)」(西南戦争における最大の激戦を伝える民謡)を歌う真風の、
右手(めて)に血刀、左手(ゆんで)に手綱の、馬上のラストサムライのような、殺気立った眼よ!
よさこい連のアニキたちも、市川團十郎も「アニキ!負けました!」とはだしで逃げそうだ(笑)
市川団十郎のご先祖が、今から300年前に、今では古典となっているとんでもない色彩感覚のド派手な衣装&髪型で、歴史上はじめて着て出てきた時の
市川海老蔵第1回自主公演「ABKAI」Ebizo Ichikawa First Independent Performance ABKAI【Digest ver.】
「ひゃあ、カッコイイ!」
を追体験した気分になりました。
お芝居の主題歌メドレーでは、
カンパニーを抜け出してお忍びでバカンスしている大スターが、スイスのリゾート地サン・モリッツに佇むホテル スヴィッツラ ハウス っぽい場所で、
かつて演じた役たちともう一度出会う、
という枠がありました。
1曲ごとに、歌唱の前に「あの時はヒッタイトの王子様なのに牢獄に捕らえられたけど、そのおかげで未来から来た少女に出会えた」
などと解説を入れてくれるのが、ライトファンにはありがたかったです。
(1公演1回しか見ていないようなライトファンだと、曲を聴きながら「これ何の公演だっけ」と考えてしまい、曲そのものに集中できないことがあったので💦)
真風さんがトップになって以降の公演は、ほぼライブビューイングと配信のおかげで、彼女と同じ時間を重ねながら鑑賞しているので、
バラの匂いを嗅いで過去を回想するように、ライブビューイングを見ていたあの頃の自分を振り返りながら、1曲1曲の歌唱を噛み締めることができました
真風イズムとは、何か
見終わった後にショーのタイトルを振り返って、
『MAKAZE IZM』
上手いタイトルだなあ。
「真風イズムとは、何か」
個人的には、それは「万人向き」であると思います。
真風涼帆の芸は、歌唱、ダンス、演技、どれか技術的に、特に秀でた個性があるわけではない。
彼女は、長いトップ期間を通じて、コアな宝塚ファンが求める「トラディショナル・スタイル」な男役像を体現しつつ、
宝塚初心者の鼻につくクセ、
料理でいう「アク」とか「えぐみ」の無い、「万人向き」の男役であり続けた。
今回は、家族がいるリビングで配信を視聴していたのですが、普段宝塚に興味の無い配偶者(「宝塚の歌い方はクサイから苦手だ」が口癖)が、
真風さんが、ショーのラスト近くで
山下達郎の「希望という名の光」
を、この歌は東日本大震災や熊本地震の支援ソングとして歌われています、と解説してから
カバーしたのを聞いて、
「ワシは山下達郎の「希望という名の光」を聞いたことがあるが、「山下達郎は今回も上手いなあ」と思って、歌詞の内容までは意識していなかった。
この男役さんは、歌詞を技巧を入れずに真っすぐに歌ってくれたので、歌の良さをあらためて実感した」
と言って、しばらくネットで「希望という名の光」を探してリピートしていました。
その芸は、初心者をも拒否しない。
「わかりやすい」のに「ふかく」、
「シンプル」なのに「余韻」があり、
オールドファンも、その男役芸の深さをつかみあぐねている。
彼女の男役人生の最後の日まで、無事駆け抜けることができますように。