『ディミトリ』新人公演感想
星組『ディミトリ~曙光に散る、紫の花~』新人公演を拝見しました。
本公演と新人公演を比べてみると、意外にも
本公演:青春アドベンチャー
新人公演:政治劇
という色合いが濃く、興味深かったです。
本公演は、ディミトリとルスダンが、まだ高校生くらいの年齢で突然のモンゴル襲来に巻き込まれ、降って湧いた戴冠に戸惑い、2人身を寄せ合って必死に背伸びして統治し、
時代の荒波にあらがううちに衝撃の結末に突入するスピード感があり、結婚からディミトリの死まで、2年も無かったのでは?
新人公演は、若くして戴冠した2人も、娘が生まれ成長するにつれ、親として、統治者として成熟する猶予があり、亡国ホラズムの王ジャラルッディーンが立ちはだかるまでに5年くらいは平穏な日々があったのではないか、と思わせる演技でした。
ディミトリ:悲劇の王子から油断ならない策士に
礼ディミトリは、人質として生きぬいてきた処世術が沁みついていて、ルスダンの良き相談相手となれれば十分、どうしても議会に出たい、とは思っていなさそうに振る舞っている。
流されるがまま、欲が無さそうに見えて、ジャラルッディーンの懐にも入り、油断させておいて、実は大胆な裏切りで形勢逆転を成し遂げる、「黙っている奴が一番怖い」タイプ。
天飛ディミトリは、それほど大柄でもないのでしょうが、王配としてガウンを着た姿に貫禄があって、強そう。
ルスダンの良き相談相手として生きることを決意しているのだけど、議会に出たくてうずうずしていそう。
後半、ジャラルッディーンの使いとして「私と離婚して、ジャラルッディーンと結婚してください」とむごい伝令を伝えに来るのも、
礼ディミトリは「こんな心にもないことを言わされて気の毒に」だけど、
天飛ディミトリだと
「王子も生まれたことだし、今は強者の下で国力を温存しましょう。息子はジョージア自治区の領主にはなれるでしょう。折を見て反転攻勢をかけるのです。」などと腹芸していそう。
油断がならない男であり、そりゃあアヴァクが警戒するのも納得。
ルスダン:シシィというよりマリア・テレジア
藍羽 ルスダン、まだ研2とのことですが、王女時代の木登りシシィのような天真爛漫から、
結婚後、新米女王として、妻、母として、つかの間の穏やかな日々を過ごす表情、
ディミトリの裏切り疑惑を目にして以降、国内の動揺を抑えるために夫の幽閉を宣告して以降の、マリア・テレジア女帝もかくやの、屹然とした最高司令官としての顔を鮮やかに演じ分けていて、感服いたしました。
裏切って寝返った夫が、離婚と敵との再婚を勧めに来て、別れ際に息子を抱かせる時の、涙そうそうの横顔が飲み込んだ言葉は何だったのだろう。
王族の婚姻関係が、個人の想いを超えて、一国家や都市の命運までも影響する時代の、愛とは、勇気とは。これぞ、現代劇では描けない「時代劇」を見る醍醐味ですね。
その他印象に残った役
稀惺アヴァクは、客に腹の底を割って見せる素直な演技。本公演だとアヴァクがディミトリを逆恨みしている感もあるけれど、天飛ディミトリが油断がならない男なので、副宰相としてこの姿勢はアリだと思う。
ジャラルッディーン(大希)・・・髭の下から覗く下唇の色気・・・貴方、美しい青年がお好きでしょ。
アン・ナサウィー(紘希)・・・一瞬、月組の組長が客演しているのかと思いました。