宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

『エンジェリックライ』正直感想


天界一の大ホラ吹き、天使アザゼル。類まれなる美貌と聡明さを持つ彼だったが、その大変なる素行の悪さから、ついに天帝の怒りを買ってしまう。アザゼルは一切の能力を封じられ、修行と称して人間界へと堕とされてしまうのだった。
天界へと帰る方法を模索するアザゼルだったが、天使としての能力と共に、なんと嘘をつく能力も封印されてしまっていた。人々に真実の素性を語るも、あまりの荒唐無稽さに相手にされず、ホラ吹き呼ばわりされてしまうアザゼル。途方に暮れ、飲んだくれる彼は、一人の女性と出会う。彼女はエレナと名乗り、トレジャーハンターだという。
エレナは、どんな天使や悪魔をも従えることができる、と言い伝えられる秘宝「ソロモンの指輪」を狙っていた。長らく人類史から紛失していたが、最近フェデリコという大富豪が入手した指輪が、それに違いないという。指輪の力を使えば、自分も天界へ帰れるかもしれない、と協力を申し出るアザゼル。二人は共闘を誓い、指輪を盗む策を練り始めるのだった。
その頃、フェデリコの元に別の怪しい影が忍び寄っていた。指輪の力を得んと欲する悪魔、フラウロスである。一方、その動きを察知した天界も、大天使ラファエルを人間界に派遣し、事態は混迷を極めていく。
果たしてアザゼルは、人間、天使、悪魔が入り乱れる騙し合いに勝利し、力を取り戻して天界へと帰ることができるのか。壮麗なる虚構で送る、ファンタジー・ホラロマン。   



※ネタバレ感想です。



管理人:『エンジェリックライ』宝塚大劇場公演千秋楽を配信で拝見しました。


紅子:「ファンタジーホラロマン」の感想は?


管理人:


「正直つまらん」と言うとホラになっちゃうし、


「すっげー面白かった」というとやっぱりホラになる。


紅子:どういうこと?


感想まとめ:「推しの子」ならぬ「天使の子」


管理人:作・演出の谷貴矢先生の作風って、歴史や文学の論文に書いてあるような学説を擬人化して、学説の対立をキャラのケンカとして表現するところがあってね。


『エンジェリックライ』についても、


主人公”アザゼル”は旧約聖書「正典」に名前は出てきますが、どんなキャラなのかは描写がありません。


神の教えを伝える諸文書のうち、旧約聖書の正典に含まれない「偽典」、つまり異端とされた「エノク書」という文書によると、


アザゼルという名前の天使は、人間の娘を愛して地上に降り、妻とし、子をなす。


アザゼルは、人間の男に戦いの技術を、女には身を美しく装う術を伝える。


その後人間達は、男達は強さを、女たちは美しさを競って争い、人間と堕天使の間に生まれた子供たちは途方もなく巨人化して、地上は大混乱になる。


神は怒り、地上に大洪水を起こしてしまう...


紅子:ネタバレになるけど、この神話の要素って、『エンジェリックライ』劇中では別のキャラにも割り振られているよね。


管理人:「天使が人間を愛する」という要素が複数のキャラに別れたせいで、お話の焦点がぼやけた印象があります。


紅子:主人公にドラマ性が薄くて、傍観者的な立ち位置になっているもんね。


管理人:個人的に面白かったのは、物語の舞台となる小島のリゾート施設の名称が「エンピレオ」というところ。


「エンピレオ」は、キリスト教の天国「パラダイス」とはちょっとニュアンスが違っていて古代ギリシャ天文学の「最高天」、また、「天国」という意味があるそうです。


紅子:つまり、『エンジェリックライ』にはキリスト教だけではなくて、ギリシャ神話的な要素があると?


管理人:古代ギリシャ神話では、神様が人間に恋をして子供を成した、というエピソードはわんさかあるんだけど、


いわゆる一神教におけるヤハウェの神(『エンジェリックライ」における天帝)って、だいぶ性格が違うのよね。


一神教の神は契約と法律にやたら厳しい、最高裁判所の裁判長みたいなキャラで、


天使たちは裁判所の判決が出たからと差し押さえに来る執行官みたいな立ち位置なの。


紅子:いいのかその例え。


管理人:そして今から2024年くらい前のイスラエルで、


「処女だけど妊娠した」乙女から生まれた男の子は、水をぶどう酒に変え、湖の上を歩き、死者を蘇らせた。


自身も処刑されたのち、復活した。


紅子:キリスト教徒かどうかで、意見の分かれそうなお話ですね。


管理人:個人的に、この一連のエピソードって何なんだろうと思っていたのね。


『エンジェリックライ』を見て気づいたわ。


新約聖書とは、


天の神ヤハウェが、人妻マリアにガチ恋した


ことがすべての始まりだと。


紅子:聖母マリアは推し(神)の子を妊娠したと...


こんちゃんがホラ吹き化してきた…


管理人:キリスト教創世記のエピソードを、ギリシャ神話的視点で見ると新たな発見があるのね。


こんな話を宝塚歌劇で大衆に披露する谷貴矢って、凄い人だと思うわ。


紅子:で、天使も悪魔も従わせる「ソロモンの指輪」って何のメタファーだと思う?


管理人:生成AIのメタファーじゃない?最近生成AIで、亡くなった方の情報を元にして、死者が蘇ったかのようなキャラを創造できるじゃない?


紅子:一神教の神って「人間が神の領域に踏み込む」ことを嫌うイメージがあるよね…