雪組御園座『パリのアメリカ人』感想
雪組御園座公演 『An American in Paris(パリのアメリカ人)』 を配信で視聴しました。
第2次大戦後のパリで、アメリカ人の資本家(マイロ:妃華)が出資して、フランス人バレリーナ(リズ:音彩)を抜粋して、アメリカ人の舞台美術(ジェリー:朝美)と音楽(アダム:縣)のスタッフで
「パリのアメリカ人」というバレエ作品を制作する。
ヒロインをめぐる恋模様に、フランス貴族の歌手志望の息子(アンリ:瀬央)がからむ。
というお話です。
日本で日本人が見ると文化の距離感がよくわかりませんが、これを1945年の日本に置き換えると
「戦後まもない京都で、アメリカ人の金持ちが、米兵と祇園の舞妓の恋物語のジャズ・ミュージカルを、アメリカ人の映画監督で制作させる」
ような話だと思うんです。
そりゃあ、舞妓さんや花柳界も、生活のため、金のためとあっても、占領者アメリカへの複雑な思いとか、祇園の芸者がジャズで踊るなんて!とか、色々な思いがあるでしょう。
米兵と芸者の関係が「当人同士、恋愛感情があればいいじゃない」
だけではすまないものがあったと思います。
『An American in Paris(パリのアメリカ人)』 ストーリー・音楽とも、作品のタイトルどおり
「現地では「異邦人」である、アメリカ人から見たパリ」
であることを貫いていることが作品に深みを与えていると思います。
ニューヨーク育ちのユダヤ系作曲家であるガーシュウィンがパリの街を歩き、「なんとなくパリっぽく」ではなくて、
「アメリカ人が感じたパリ」を音符でスケッチしてオーケストラで描いた、1928年のパリの空気。
ガーシュウィンは1937年に亡くなっており、その後1951年に彼の音楽を元にアメリカでジーン・ケリー主演でミュージカル化されました。
(ゆえに、ストーリーテラーはアメリカ人の音楽家アダムとなっている)
An American in Paris (1951) - trailer
この1951年の映画版は、むかーし見たことがあるのですが、ショースター・ジーン・ケリーのボーイ・ミーツ・ガールの陽気なミュージカルという感じで、あまり重い話だった記憶がありません。
戦後数年しか経っていないわけで、映画館の観客は皆、戦争の惨禍は骨の髄まで沁みていて、甘いラブストーリーと陽気なジャズに飢えていた時代ですからね。
今回宝塚で上演されたバージョンは、1951年公開のミュージカル映画をもとに、2014年にパリでミュージカル化されたものだそうです。
戦後70年たって、戦後間もない時代の作品を再構築するにあたり、ストーリーはスター映画から群像劇の色合いが濃くなりました。
登場人物たちは
アメリカとフランス、
ユダヤ教徒とキリスト教徒、
金を出す国と、出される国
ナチス・ドイツから解放した国と、ナチス・ドイツを止めきれなかった国
武器で戦った者 武器以外で戦った者
現代のポピュラー音楽の潮流(ジャズ以降)を作った国と、クラシックの時代以降「音楽の歴史」で名前を見なくなった国
様々な属性の個人の対立は、背景の文化や歴史関係の対立でもある。
主人公のジェリーは戦勝国のアメリカの元兵士で、彼も戦争で傷を抱えていて、異邦人で、フランスという異国で会う人たちはさまざまな事情をかかえていて、
近くて遠い距離感を踏み込みあぐねて、フタをしたままの本当の想いを探して。
パリのアメリカ人だから、言えない言葉があるかもしれない。
パリのアメリカ人だから、言えた言葉があるかもしれない。
これは1945年の遠い昔の反戦ものではなくて、令和の時代にも通じる自分探しの旅でもある。
見ごたえがありました。