宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

花組新人公演「アルカンシェル」正直感想




花組 東京宝塚劇場公演『アルカンシェル』の新人公演を配信で視聴いたしました。


2幕もの作品を1時間45分ほどに圧縮し、華やかなレビューシーンは冒頭以外ほぼカット。


華やかさは大幅に減り、宝塚歌劇というより、


終戦ドラマ特集【戦時下の浅草レビュー小屋で生きた人たちの物語ーそれでも私は舞台に立った】


のような雰囲気になりましたね。


主役のマルセル・ドーランという役は、つくづく柚香光の魅力を生かした「あてがき」で、新人公演主役の天城れいんは大きな学びがあったことと思います。


柚香光は、ダンスのたび、エスコートのたび、ティーカップを持とうが、殴られようが、背景に花が咲いて空間を埋め、もの言いたげな瞳が想像を掻き立てる。


饒舌なセリフのやりとりで緻密に心情を表現するより、セリフの余白に香る情緒が魅力の男役。


今回の新人公演上演台本では、ダンスシーンと「余韻たっぷりの見つめ合い」が時間の都合で削られてしまい、マルセルは本役よりもさらに「寡黙な男」のキャラに。


「余白の余韻」を埋めきれず、ちょっと「空白」を感じるところもありましたが、パリ爆破阻止の場で、カトリーヌ奪還作戦のためにフリードリッヒが背負ったものを知った時の表情など魅力的でした。


天城れいんの個性に合わせて、新人公演用にもう少し心情表現のセリフを補ってもよかったかもしれません。




新人公演版「アルカンシェル」の【終戦ドラマ特集】化と申しましたが、ドイツ軍検閲官のフリードリッヒとアネットのカップルの描写に「令和」を感じました。


昭和の時代、観客席に「戦争を知る大人達」が大勢いらした頃は、ドイツの軍人でありながら上官命令の裏をかいてマルセルに協力するフリードリッヒと、敵国の軍人と恋に落ちるアネットには、次期トップコンビではなく別格コンビを配役していたのではないでしょうか。


本公演のフリードリッヒ(永久輝 せあ)とアネット(星空 美咲)コンビは、昭和の終戦ドラマにありそうな「売国行為をしている背徳感」がじっとりと滲んでいる。


新人公演のフリードリッヒ(遼 美来)は「お国のため」に自身の正義を曲げたくない信念があり、アネット(花海 凛)は、てらいなく真っすぐにフリードリッヒを見つめる。


「戦争を知らない孫たち、ひ孫たち」世代が演じる戦争ドラマで、国境で分断できない個人間の愛を表現するカップルとして、これもありかなと思いました。