宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

こっちが本公演でいいよ新人公演『ROBIN THE HERO』感想


『ROBIN THE HERO』新人公演を配信で視聴しました。


脚本・演出については、もうこっちを本公演にしていいんじゃないか、と思いました。


本公演の脚本・演出は、auの『三太郎』のCMを、延々と90分見せられているような感覚になったんですよ。


イギリスならいざ知らず、日本ではロビン・フッドと言われても、金太郎より馴染みが無い人が多いのではないでしょうか。


金太郎は、三太郎の中では、実は源頼光という武士の家来となって賊を退治したという史実にからんだ伝承もあり、立ち位置としてはロビン・フッドに近い存在かもしれません。


でも、金太郎パロディをいきなりやられて楽しめるかというと・・・


新人公演版『ROBIN THE HERO』は、このお話の目的を


・裏切者の烙印を押された父の敵討ち


・悪代官(ノッティンガム)の所業を暴く


という軸をブラさず、


話の背景の


・キリスト教 VS イスラム教


・愚かな王弟 VS 勇敢な兄王


という構図を強調することで、異国の古い伝説を、正統派の演出でみせてくれました。


たとえば万博に「イングランドパビリオン」があって、


”わたしたちイングランドパビリオンは、


わが国に伝わる「ロビン・フッド伝説」をとおして、日本のみなさまに、


イングランド人の自然と共に生き、自由と正義を求める誇り高き精神をお伝えします”


みたいな展示を見て


「なるほど、わかりやすくてためになったわ」


と思いながらパビリオンを出て、出口の売店でビールを買って飲んでいるような感覚ですね。全体に「公式」感があって、お行儀がよくて。


個人的には、本公演では屈折して腹の底を見せないキャラだったガイ・ギズボーン(本役瀬央ゆりあ)を演じた紀城ゆりやの、ギラギラして何が悪い!芸に惹かれました。

『花の業平』感想


『花の業平』~忍ぶの乱れ~を配信で拝見しました。


2023年に上演された『応天の門』-若き日の菅原道真の事-と

在原業平[歌才に優れた貴公子]鳳月 杏


藤原高子[良房の養女、基経の妹]天紫 珠李


藤原基経[良房の養子、高子の兄]風間 柚乃


の主要3役が重なっているという興味深い配役です。


『応天の門』は、平安朝クライムというだけあって、事件が立て続けに起こり、登場人物たちは複雑な心理の綾を張り巡らせ、伏線を張って、回収して、また伏線を張って、回収して・・・と忙しいストーリーでした。


道真は見た目は子ども、頭脳は大人な探偵として、業平は検非違使として、平安京に巣食う闇を暴く仕事人たちは都大路を駆けまわっています。


『花の業平』における業平は、藤原氏に押され気味の、不遇で反体制的な貴公子、くらいはわかるのですが、


普段どんなお仕事をしているのか?和歌を詠んで、恋愛するのが仕事?


舞台では応天門が炎上したり、業平と高子が思い合ったり、引き離されたり、駆け落ちしたり、いろいろ事件はあるのですが、


それらが巧みな伏線で繋ぎ合わされて、あっとおどろく結末に繋がるというわけでもない。


『応天の門』が、21世紀の高度に発達したマンガの表現技法を駆使して、1200年前に生まれた業平を「同時代人」的な視点で描くのに対し、


『花の業平』は、美術館で、いにしえに描かれた伊勢物語絵巻を「ほう…」とためいきをついて鑑賞するような舞台。


初演の評判はたいへん良かったのに、20年以上再演されなかったのも、絵巻の空白を埋められるジェンヌを待っていたのが理由だったのでは。



社会の資料集で見る絵巻物の人物の顔は、ガラケーの顔文字のように、単純な一本線でぱっと描かれているように見えて、


実物を見ると、細密な線を引き重ねて、微妙な心理の揺れまでも描いています。


鳳月杏演じる業平像には、美術館の至宝のような繊細な描線がある。


三日月のように冷たい白磁の輝きがある。


でもその白磁は、恋の熱に焼かれ窯変し、今取窯から出されたばかりの白磁にしかない熱に満ちている。


宝塚で、路線男役が研20にして辿り着いた、大人の貫禄と、反体制の若者の苦悩が同居した貴公子芸を堪能しました。

『ROBIN THE HERO』感想 面白がるにもコツがいる

『ROBIN THE HERO』宝塚大劇場千秋楽のライブビューイングを拝見いたしました。



宝塚版『ROBIN THE HERO』は、イギリスの伝説的英雄ロビン・フッドの、父の仇討ちと、甘酸っぱい恋の物語です。

ロビン・フッド

Robin Hood

イギリスの伝説的英雄


〈獅子心王〉リチャード1世(在位1189-99)の時代,すなわち12世紀後半ごろに,ノッティンガムシャーのシャーウッドの森にこもり活躍したと伝えられる。


リトル・ジョンタック坊さんなど,愉快な部下とともに悪王の圧政に苦しむ民衆を助け,金持ちから奪った富を貧民に与え,けっして女に害を加えぬ義賊といわれる。


一説によると,本名をハンティンドン伯爵ロバート・フィツースEarl of Huntingdon,Robert Fitz-Oothという貴族であったが,ゆえあって国法を破り森に住む山賊となり,最後に一修道女の裏切りによって非業の死をとげたことになっている。


ロビン・フッドは民衆の間に圧倒的な人気があったため,数々の文献に名を残している。



ロビン・フッド=金太郎説


管理人:イギリスでどうかは存じませんが、日本における「ロビン・フッド」のイメージって、「弓が上手い人」がせいぜいだと思うんですよ。


紅子:縣千演じるウィルが、息子の頭の上にリンゴを乗せて弓で、射抜いた人だっけ?


管理人:それはスイスのウィリアム・テル。縣の役ウィル・スタートレイとは別人です。


紅子:え、ウィル・・・


管理人:ロビン・フッドって、auのCM「三太郎」で言うと、桃太郎でも浦島太郎でもなくて、金太郎枠じゃないかしら。




濱田岳“金太郎”が一人で鬼退治?「三太郎」新CMは感動の友情ストーリー!auのCM三太郎シリーズ「もうひとつの鬼退治」編


紅子:金太郎って、まさかり担いで、熊に乗って、熊と相撲して・・・何だっけ?


管理人:高名な武将・源頼光の家来になって、家来の1人として鬼退治に参加したそうです。


紅子:CMでは結局、桃太郎や浦島太郎と合流して鬼退治に行ってるわね。


桃太郎パロディとか浦島太郎パロディに比べて、金太郎パロディってあんまり記憶に無い…


管理人:元ネタを知らないのに、パロディを見ても面白がりにくいよね。


今回の宝塚版『ROBIN THE HERO』も、auの金太郎パロディ編の匂いがするのよね。


見た目はディズニー、中身は少年ジャンプ系


管理人:映画館で見ていると、舞台美術は20世紀の2D描写の頃のディズニーアニメそっくり。


演技の方向性も、特にヒロインを演じる夢白あやの表情の付け方や歌い方が、現代の3D描写のディズニーヒロインそのもの。


紅子:でも全体の雰囲気は、ディズニーっぽいけれどやっぱり違って、少年ジャンプ系とか深夜アニメ系。


管理人:心の声で心理をすべて読み上げる演出とか。


紅子:行間を察する必要なし!


管理人:ウォルト・ディズニー・カンパニーが、ディズニー映画「Robin」の制作を、日本の普段少年ジャンプ系漫画のアニメを作成している制作会社に委託したとする。


紅子:ありえない展開。


管理人:日本のアニメ会社も、昔話をポリティカル・コレクトに配慮して魔改造してがんばってディズニーっぽい脚本を作ってみたけれど、「なんか違う」ことになって製作はお蔵入りに。


紅子:もったいないので「転生したらロビン・ザ・ヒーロー!だった件」として,auの昔話パロディのノリで深夜枠で放送した、みたいな。


管理人:見ていて、パートごとにノリがNHK歴史探偵だったり、ディズニーだったり、深夜アニメのゆるゆる展開だったりして、どういうモードで視聴すればいいのか混乱するわ。


紅子:タック神父の「どっちの味方だ問題」とか「ウルトラソウル!」の「おれがお前でお前がおれで」展開とか、演者がお芝居達者だから面白いっちゃあ面白いけど。


敵方の作戦のずさんさにはさすがに


「ガチの戦いをしている最中にそんないらんことをして、勝てると思っているのか!」


と説教したくなるわね。


管理人:悪人枠の王の弟ジョンは「イギリス史上最悪の王様」と評判悪い方だそうです。


紅子:そんなこと、フツーの日本人は知らんし。


管理人:あっさり裏切っては許されるし。


出生の秘密も、この展開いる?


紅子:話を見ながら、王様の姉とか姪とか、頭の中で家系図を考えなきゃいけないのもねえ。


管理人:ヴェローナではいとこ同士の結婚はご法度だったような…


紅子:まあ、みんなの達者なお芝居を見ている分には面白いんだけど、初見でストーリーを追いたい人にはむやみにハードルが多い作品だわね。




クライ多め『エンジェリックライ』新人公演感想


『エンジェリックライ』新人公演を配信で視聴いたしました。


谷貴矢氏は、日曜朝の少女向けアニメのフォーマットでホラを吹いているようにみせて、こっそり「歴史オタク界隈で話題の学説を解説する」ことを作劇の骨格にしているタイプだと思います。


(『FORMOSA!!』も実は谷氏のホラロマンの作風に近くて、史実は小説よりも奇なりを体現した実在の人物をモデルにしています。史実の奇天烈さを宝塚的ロマンに落とし込む作劇術が不足していたのが残念)


さて、感想を一言で申しますと、


本公演は”エンジェリック・ライ”


新人公演は”エンジェル・クライ”


キリスト教的「天使」の世界観と、ギリシャ神話の神と人が愛し合い、交わり子を成す世界観を無理やりくっつけた本作。


本公演では、永久輝せあは、「作者の谷先生のトンチキな頭の中やウソのギミックを、お客様にどうにかわかっていただくこと」に労力を使っていたなあと思います。


個人的には、新人公演の美空真瑠アザゼルのほうが、


”類まれなる美貌と聡明さを持つが、その大変なる素行の悪さから、ついに天帝の怒りを買ってしまう堕天使”


の解釈に近かったです。


アザセルはエレナに対して「ウソをつけない、駆け引きできない、忖度もできない」制限がかかっていること、それゆえのもどかしい繊細な感情が自然に伝わってきて、達者ですわ。


おとめの特技欄に「テノール歌手の真似」って凄いな、と思っていましたが、ほんとにテノール歌手でした。大柄でもないと思うのですが、身のこなしで大きく見えるし、スター性もある。



ヒロインの初音夢は、ここが瀬戸内の島と言われても違和感が無い、けなげな娘さんで、天使と恋する不思議キャラとか、宝石ハンター(義賊)っぽいかと言われるとちょっと違うのですが(夜の女王の衣装が居心地悪そうで)


「島の外から来た人(?)」と一歩づつ距離を縮めてゆくさまや、マフィアの父のもとに生まれた葛藤を丁寧に演じていたと思います。

『エンジェリックライ』正直感想


天界一の大ホラ吹き、天使アザゼル。類まれなる美貌と聡明さを持つ彼だったが、その大変なる素行の悪さから、ついに天帝の怒りを買ってしまう。アザゼルは一切の能力を封じられ、修行と称して人間界へと堕とされてしまうのだった。
天界へと帰る方法を模索するアザゼルだったが、天使としての能力と共に、なんと嘘をつく能力も封印されてしまっていた。人々に真実の素性を語るも、あまりの荒唐無稽さに相手にされず、ホラ吹き呼ばわりされてしまうアザゼル。途方に暮れ、飲んだくれる彼は、一人の女性と出会う。彼女はエレナと名乗り、トレジャーハンターだという。
エレナは、どんな天使や悪魔をも従えることができる、と言い伝えられる秘宝「ソロモンの指輪」を狙っていた。長らく人類史から紛失していたが、最近フェデリコという大富豪が入手した指輪が、それに違いないという。指輪の力を使えば、自分も天界へ帰れるかもしれない、と協力を申し出るアザゼル。二人は共闘を誓い、指輪を盗む策を練り始めるのだった。
その頃、フェデリコの元に別の怪しい影が忍び寄っていた。指輪の力を得んと欲する悪魔、フラウロスである。一方、その動きを察知した天界も、大天使ラファエルを人間界に派遣し、事態は混迷を極めていく。
果たしてアザゼルは、人間、天使、悪魔が入り乱れる騙し合いに勝利し、力を取り戻して天界へと帰ることができるのか。壮麗なる虚構で送る、ファンタジー・ホラロマン。   



※ネタバレ感想です。



管理人:『エンジェリックライ』宝塚大劇場公演千秋楽を配信で拝見しました。


紅子:「ファンタジーホラロマン」の感想は?


管理人:


「正直つまらん」と言うとホラになっちゃうし、


「すっげー面白かった」というとやっぱりホラになる。


紅子:どういうこと?


感想まとめ:「推しの子」ならぬ「天使の子」


管理人:作・演出の谷貴矢先生の作風って、歴史や文学の論文に書いてあるような学説を擬人化して、学説の対立をキャラのケンカとして表現するところがあってね。


『エンジェリックライ』についても、


主人公”アザゼル”は旧約聖書「正典」に名前は出てきますが、どんなキャラなのかは描写がありません。


神の教えを伝える諸文書のうち、旧約聖書の正典に含まれない「偽典」、つまり異端とされた「エノク書」という文書によると、


アザゼルという名前の天使は、人間の娘を愛して地上に降り、妻とし、子をなす。


アザゼルは、人間の男に戦いの技術を、女には身を美しく装う術を伝える。


その後人間達は、男達は強さを、女たちは美しさを競って争い、人間と堕天使の間に生まれた子供たちは途方もなく巨人化して、地上は大混乱になる。


神は怒り、地上に大洪水を起こしてしまう...


紅子:ネタバレになるけど、この神話の要素って、『エンジェリックライ』劇中では別のキャラにも割り振られているよね。


管理人:「天使が人間を愛する」という要素が複数のキャラに別れたせいで、お話の焦点がぼやけた印象があります。


紅子:主人公にドラマ性が薄くて、傍観者的な立ち位置になっているもんね。


管理人:個人的に面白かったのは、物語の舞台となる小島のリゾート施設の名称が「エンピレオ」というところ。


「エンピレオ」は、キリスト教の天国「パラダイス」とはちょっとニュアンスが違っていて古代ギリシャ天文学の「最高天」、また、「天国」という意味があるそうです。


紅子:つまり、『エンジェリックライ』にはキリスト教だけではなくて、ギリシャ神話的な要素があると?


管理人:古代ギリシャ神話では、神様が人間に恋をして子供を成した、というエピソードはわんさかあるんだけど、


いわゆる一神教におけるヤハウェの神(『エンジェリックライ」における天帝)って、だいぶ性格が違うのよね。


一神教の神は契約と法律にやたら厳しい、最高裁判所の裁判長みたいなキャラで、


天使たちは裁判所の判決が出たからと差し押さえに来る執行官みたいな立ち位置なの。


紅子:いいのかその例え。


管理人:そして今から2024年くらい前のイスラエルで、


「処女だけど妊娠した」乙女から生まれた男の子は、水をぶどう酒に変え、湖の上を歩き、死者を蘇らせた。


自身も処刑されたのち、復活した。


紅子:キリスト教徒かどうかで、意見の分かれそうなお話ですね。


管理人:個人的に、この一連のエピソードって何なんだろうと思っていたのね。


『エンジェリックライ』を見て気づいたわ。


新約聖書とは、


天の神ヤハウェが、人妻マリアにガチ恋した


ことがすべての始まりだと。


紅子:聖母マリアは推し(神)の子を妊娠したと...


こんちゃんがホラ吹き化してきた…


管理人:キリスト教創世記のエピソードを、ギリシャ神話的視点で見ると新たな発見があるのね。


こんな話を宝塚歌劇で大衆に披露する谷貴矢って、凄い人だと思うわ。


紅子:で、天使も悪魔も従わせる「ソロモンの指輪」って何のメタファーだと思う?


管理人:生成AIのメタファーじゃない?最近生成AIで、亡くなった方の情報を元にして、死者が蘇ったかのようなキャラを創造できるじゃない?


紅子:一神教の神って「人間が神の領域に踏み込む」ことを嫌うイメージがあるよね…