宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

月組 芸術祭賞受賞!川端康成もゴーストで乙女小説執筆疑惑!?

月組が優秀賞、原田先生が新人賞!


このたび、宝塚歌劇団 月組、ならびに宝塚歌劇団 演出 原田諒が、令和2年度文化庁芸術祭賞を受賞することとなりましたので、お知らせいたします。


◇部門:演劇(関西参加公演の部)

◇区分:優秀賞

◇受賞者:宝塚歌劇団 月組

◇受賞対象:宝塚歌劇 月組公演『WELCOME TO TAKARAZUKA -雪と月と花と-』『ピガール狂騒曲』の成果


◇部門:演劇(関西参加公演の部)

◇区分:新人賞

◇受賞者:原田諒

◇受賞対象:宝塚歌劇 月組公演における『ピガール狂騒曲』の脚本・演出




授賞理由

“雪月花”をテーマにした華やかな日本もののレビューと、シェイクスピア原作「十二夜」をベースに舞台を20世紀初頭のパリのレビュー界に置き換えたミュージカル作品の2本立て。


歌舞伎界の人間国宝・坂東玉三郎が宝塚歌劇を初監修したレビューは、植田紳爾が演出を手掛け、日本舞踊と洋楽の融合、明るさと暗闇を使った印象的な場面を統率の取れた踊りで魅せた。


芝居も原作を卒なくアレンジし軽快でコミカルな作品となった。ショーと芝居の比重もバランスよく出来栄えも見事。


第106期生のお披露目も舞台に華を添えた。

※文化庁のHPによると、今年度は大賞は「該当なし」とのことでした。


お芝居は、シェイクスピアのごちゃごちゃしたドタバタを、20世紀初頭のベルエポックのパリ、特に原作におけるツンデレなオリヴィア姫を、実在の女性作家シドニーガブリエル・コレットに置き換えたアイデアの勝利ですよね。


「雪月花」の主題歌「あなたの夢はなんですか みんなあなたにかなえましょ」という歌詞が、ピガールの原作「十二夜」の副題(What You Will)にかけていたり、


「花」の「女性が鏡を見ながらお化粧をしていると、そこに映っていた影が突然踊り出し、“男性”へと変貌する…」という設定とか


「ショーと芝居の比重もバランスよく出来栄えも見事」まさに。





ガブリエルのモデル シドニーガブリエル・コレット


映画『コレット』予告編



男装したら捕まる時代・・・

「学校のクロディーヌ」とは?

作中に出てくる「学校のクロディーヌ」という作品は、実際にコレットが執筆した、(対外的にはコレットをモデルに夫が書いたことにされた)


当時のパリで爆発的ヒットになった、フランス史上初の「女子学生の学園もの」でした。


そもそも19世紀前半までは、良家の女の子は、現代的な意味の学校に通っていなかったんですよ。


『CASANOVA』のベアトリーチェのように、女子修道院に入って男のいない世界で、神の教えを学び、良妻賢母になるための行儀見習い、10代半ばで親の決めた相手と「ラブ抜きの結婚」があたりまえ。


それがコレットの世代になって、女子も近代的な「公立学校」に通うようになったんですね。


つまりコレットが書いた「学校のクロディーヌ」は、フランス史上初の、実際に公立学校に通って、女の子同士の恋バナとか、男子が女子を見る目線がどーたら、とかの心の綾を生き生きと表現し、


男性作家が、(妻をモデルに)これまで秘密の花園だった女学生ライフを、こんなにリアルに描写するとは!と大評判になったんですね。


主人公クロディーヌのキャラは鬼滅の刃並みに広告に起用されたり、クロディーヌ石鹸が販売されたり。


でも、版権はぜーんぶ夫のもの・・・



実は、これに似た話は日本にもあって、



太宰治「女生徒」


太宰治「女生徒」朗読カフェ萩柚月朗読 青空文庫名作文学の朗読


あさ、眼をさますときの気持は、面白い。


かくれんぼのとき、押入れの真っ暗い中に、じっと、しゃがんで隠れていて、突然、でこちゃんに、がらっと襖ふすまをあけられ、日の光がどっと来て、でこちゃんに、「見つけた!」と大声で言われて、


まぶしさ、それから、へんな間の悪さ、それから、胸がどきどきして、着物のまえを合せたりして、ちょっと、てれくさく、押入れから出て来て、急にむかむか腹立たしく、あの感じ、いや、ちがう、あの感じでもない、なんだか、もっとやりきれない。


箱をあけると、その中に、また小さい箱があって、その小さい箱をあけると、またその中に、もっと小さい箱があって、そいつをあけると、また、また、小さい箱があって、その小さい箱をあけると、また箱があって、


そうして、七つも、八つも、あけていって、とうとうおしまいに、さいころくらいの小さい箱が出て来て、そいつをそっとあけてみて、何もない、からっぽ、あの感じ、少し近い。


中略


おやすみなさい。私は、王子さまのいないシンデレラ姫。あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか? もう、ふたたびお目にかかりません。


太宰くん、「おやすみなさい。私は、王子様のいないシンデレラ姫」ってスゲーな・・・


実はこれは、太宰治のファンであった有明 淑(ありあけ しず)さんが、太宰治に自身の日記を送り、太宰はそれをもとに「女生徒」という作品にして雑誌に発表、


太宰は雑誌発表後、すぐに有明 淑に掲載誌を送り、有明 淑は感激の手紙を太宰に送っているので、コレットとは違いますが。


川端康成、弟子に書かせた乙女小説を少女雑誌に連載

もっとコレットの事例に近いのが、ノーベル文学賞作家川端康成が、戦前少女雑誌「少女の友」に連載していた「乙女の港」


『乙女の港』(おとめのみなと)は、川端康成名義の長編小説。川端の少女小説として連載発表されたが、


今日では、当時川端に師事していた新人の主婦作家・中里恒子(佐藤恒子)の草稿に、川端が校閲・加筆指導・手直しをして完成させた共同執筆の合作だったことが判明している作品である。

戦前の女学生の間では、「エス」という上級生と下級生による、まあ、現代の「百合」的な関係を結ぶ風習があったそうで。


川端康成はそんな「エス」の世界を描写して、当時の女学生たちから熱狂的に受け入れられたのですが、


「乙女の港」は戦後、川端康成の著作リストから外されていた時期があったり、いろいろと裏事情のある作品のようです。



乙女の港 (実業之日本社文庫) [ 川端康成 ]

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商品説明

【内容情報】(「BOOK」データベースより)

舞台は昭和初期、横浜のミッションスクール。新入生の三千子に、ふたりの上級生から手紙が届く。品よく儚げな洋子と、負けず嫌いで勝気な克子。ふたりの間で揺れ動く三千子だがー昭和12年、伝説の雑誌「少女の友」に連載された本作は一大ブームを巻き起こした。少女時代特有の愛と夢、憧れとときめきに満ち満ちた、永遠の名作。雑誌初出時の中原淳一の挿絵を全点収録。


【著者情報】(「BOOK」データベースより)

川端康成(カワバタヤスナリ)

1899(明治32)年大阪府生まれ。東京大学国文科卒業。1924年横光利一らと「文芸時代」を創刊。「伊豆の踊子」「雪国」等の話題作を多数発表。61年文化勲章、68年ノーベル文学賞受賞。少年少女向けの作品にも関心を寄せ、雑誌「少女の友」では読者投稿欄(作文)の選者も担当した。72年没

中里恒子さんは、その後女性初の芥川賞作家となりました。


作家の田辺聖子さんは、「少女の友」に投稿した作品が、川端康成の選により掲載されたのが「初めて自分の書いたものが活字になった」体験だったそうです。


川端康成の、少女文化的なものに対する関心と、その世界を紡ぐ言葉を見抜く眼はホンモノだったのでしょうね。