宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

夢千鳥「夢二に必要とされる必要」から逃げた赤い鳥


『夢千鳥』

作・演出/栗田 優香

映画監督の白澤優二郎は、女優の赤羽礼奈と事実上の婚姻関係にありながらも、新作を撮る度に主演女優と浮名を流し世間を騒がせていた。


そんな白澤が挑む次回作は、大正浪漫を代表する画家・竹久夢二の人生を描いた物語。


幼い頃から運命の女を探し続けた夢二もまた、艶聞の絶えない男であった。勝ち気な美貌の年上妻・他万喜と縁を切れないまま、純真な女学生・彦乃への想いを募らせ──


撮影が進むにつれ、白澤は自分と夢二の境界が曖昧になるほどに彼の人生に飲み込まれていく。


夢二の人生を描いた先に、白澤が見つけた愛とは…?


甘く儚い抒情画の世界観に骨太な愛憎劇を織り交ぜ、詩情豊かな舞台をお届け致します。この作品は、演出家・栗田優香の宝塚バウホールデビュー作となります。


ポスターに出てくる4つの色の羽根は、


白い羽:白澤 優二郎/竹久 夢二  和希 そら

赤い羽根:赤羽 礼奈/他万喜  天彩 峰里

青い羽:彦乃  山吹 ひばり

黄色い羽:お葉  水音 志保

今回は赤い羽根:赤羽 礼奈/他万喜のお話です。


ヒロインは間違いなく天彩 峰里 赤羽 礼奈/他万喜




駿河太郎が画家・竹久夢二を熱演!映画『夢二~愛のとばしり』予告編



「夢千鳥」は、「大正時代の夢二の映画」を撮る「昭和の映画監督 白澤 優二郎」のお話、という枠構造をとっている。


映画の撮影シーンでは、監督 白澤 優二郎役を和希 そら、夢二役を 秋音 光、そして勝ち気な美貌の年上妻・他万喜役を、白澤と内縁関係にある女優の赤羽礼奈が演じる。


お話本編の8割は大正時代の夢二の人生のお話なので、外枠構造は必要なのか?と思うけれども、


この枠があることで、「夢千鳥」におけるヒロインポジは、間違いなく赤羽 礼奈/他万喜 (天彩 峰里)であり、


お話のテーマは白澤 優二郎/竹久 夢二 と赤羽 礼奈/他万喜との「共依存からの脱却」となる。


共依存とは?

夢二は芸大で正式に絵画を学んだわけではなく(早稲田実業学校卒)、どんなに人気があっても、しょせんは独学の流行画家、メインカルチャーではなくサブカル。中央画壇へのコンプレックスを抱えている。

夢二にとって勝ち気な美貌の年上妻・他万喜は、正式な結婚をした唯一の女性。他万喜の前の夫は画家であり、夢二に絵の基本を手ほどきしたのも彼女。


他万喜自身は絵描きではなかったが、「美を見る眼」は確かであり、夢二は誰よりも他万喜に認められたがっている。


夢二は美しい他万喜をモデルにした「夢二式美人」で一世を風靡し、他万喜は夢二のインスピレーションの源、ミューズであることを生きがいにしている。


神話によれば、ミューズは詩人や楽人に霊感を与えた反面、おごれる歌人を罰することも多く、トラキアの楽人タミリスがミューズたちにも負けないと高言したとき、彼女たちは怒ってタミリスの視力を奪い、さらに歌と竪琴(たてごと)の技をも失わせたとか、怖いエピソードがあるのだけれど、


他万喜さんは夢二の浮気に愛想をつかして籍を抜いてからも、くっついたり別れたり、取っ組み合いの喧嘩をしたかと思えば、情熱的な「愛と憎しみのタンゴ」を踊るような不思議な関係。


夢二もたいがいですが、他万喜もたいがいである。他万喜は現代で言う「夢二に必要とされる必要」にとらわれた「共依存」関係にあったのではないか。



依存症者に必要とされることに存在価値を見いだし、ともに依存を維持している周囲の人間の在り様。


例えばアルコール依存症の妻は、依存症に巻き込まれた被害者と言えます。


一方で家族研究から、妻はアルコール依存症者のそばで病気の維持に手を貸している面があり、間接的にアルコールに依存しているという「共依存」ではないかという考えがでてきました。


共依存者は被害者であるとともに共犯者でもあり、相手(依存症者)に必要とされることで自分の存在価値を見いだすためにそのような相手が必要であるという、自己喪失の病気であるといえます。


共依存の例として以下が挙げられます。

「1. いつも飲まないように口うるさくして、本人の否認を増強させている関係」

「2. 世話焼きをし過ぎることで、本人がアルコール問題に直面しないようにしている関係」

「3. 夫のアルコールによる失敗の後始末をして、世間にはアルコール問題がないかのようにふるまっている関係」

「4. 性格の問題とみなして、 アルコール問題を否認している妻」

「5. 夫のしらふの時にはお互いに緊張してよそよそしく、飲むと互いに感情が爆発する関係

「6. 夫のしらふの時には妻が支配的で、飲むと暴力で夫が支配する関係

「7. 夫から離れられず、いつも犠牲者としての悲劇のヒロインを演じ続けている妻たち」などです。


もちろん依存症者がどの立場であるかによって、「夫や親」「親戚」「友人」「上司」などに共依存が生じ得ます。

2人で生きるために逃げた赤い鳥

この赤い鳥 赤羽 礼奈/他万喜 が救われるためには、自身の存在価値が「夢二に必要とされる必要」であることに囚われている呪縛からの解放が必要。


ここで外枠構造が生きてくる。


結局、白澤 優二郎は夢二の人生を「撮る」ことで、赤羽 礼奈は、他万喜役を「演じる」ことで、自己を客観視し、セルフカウンセリングの果てに、関係を修復するのである。


2人で生きるために、赤い鳥はかごを開けて空へと飛び立つ必要があったのだ。



中森明菜「赤い鳥逃げた」作詞:康珍化

痛むのがいつでもやさしい心なら やさしさどこに捨てましょうか。


赤い鳥が逃げた Fly Away 愛のかごを開けて 空へと

赤い鳥が逃げた Fly Away 銀の涙 翼濡らして 

赤い鳥が逃げた いつか2人で見る 夢を探して


赤い鳥逃げた (カラオケ) 中森明菜