宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

月城『FULL SWING!』”顔で踊る”ことは大事だ



健司と美雪の織りなす布は

先日の記事で、『今夜、ロマンス劇場で』という作品にイマイチ泣けなかった、などとぐちぐち言っておりましたが、




これはあくまで、自分の感性は原作映画に基づく作品世界に合わなかった、という意味で、月城さんはじめ月組生の演技は大いに楽しませていただきました。


月城さんの演技の上手さは、いわゆる「憑依型」の役者に圧倒されるのとも違って、


主人公が行為に到るまでの心理を、まるで数学の証明問題を解き明かしていくかのように、克明に描いている小説を読むような感覚を味わえるところにあると思います。


私は今回の『今夜、ロマンス劇場で』の原作映画や脚本が想定している健司の人物像は、どっちかというとおおらかな、太めの糸でざっくりと織り上げた木綿のような雰囲気のキャラに思ったのですが、



菅田将暉&小松菜奈 映画『糸』MUSIC VIDEO( 中島みゆき「糸」フル )【8月21日(金)公開】


月城さんの健司像は、極細の絹糸を使って何か月もかけて文様を織り込んだ高級ペルシャ絨毯のような、緻密な肌触りを感じました。


月城さんの心理描写は、20世紀アメリカ文学史上の最高傑作と言われる『グレート・ギャッビー』ではどこまで精緻化するのでしょうか。楽しみです。




「顔でも踊れる」のは大事だ

管理人はライビュ専科の地方民ゆえ、肉体という3次元の存在ありきのダンスと言う彫刻的な芸術を、2Dの平面の画面で見ていてもいまいち乗り切れない疎外感があるのですが、


『FULL SWING!』は、ライビュで見ても十分楽しかったです。月城さん、顔で踊りますよね(笑)


「顔で踊る」という表現は「顔芸に走らず、もっと体を動かして!」という意味合いで使われることがあるのは存じておりますが、


映画館の大画面で踊る月城さんの表情を見ていると、「顔でも踊れる」のは大事だなあと思います。


ショーの中盤、兵士が鉄条網にとまった一匹の蝶々に手を伸ばして撃たれ、その後女たちとのダンスシーンになる場面がありました。


私は鉄条網と兵士と蝶、で「西部戦線異状なし」という映画を思い出しました。


【西部戦線異状なし Im Westen nichts Neues】

第1次大戦の戦場を舞台としたレマルクの長編小説。1929年発表,たちまちベストセラーとなり,以後32ヵ国語に翻訳された。


19歳のギムナジウム(高等学校)生徒パウル・ボイマーは級友と共に兵役を志願させられ,10週間の訓練ののち西部戦線へ送られる。激しい戦闘の続く中,級友は次々にたおれ,ドイツ軍の敗色濃い1918年秋,パウルもついに戦死。


すでに休戦の気配がただよい,司令部報告に〈西部戦線何事もなし〉と書かれるほど静かな日のことであった。



The Butterfly - All Quiet on the Western Front (10/10) Movie CLIP (1930) HD


映画では、第1次世界大戦に従軍した兵士がつかの間の休暇で故郷に帰り、女たちと踊ったあと再び戦場に戻り、


極限の疲労の中、ふと目にした美しい蝶に触れようとして銃撃され、その日の司令部報告には〈西部戦線異状なし〉と書かれた、という話です。


『FULL SWING!』では、撃たれた後に女たちと踊っているのは、死の間際の兵士の脳裏によぎる走馬灯かな、とも思いましたし、


踊る月城さんの表情が、照明効果もあるのでしょうが、熱の無い蛍火に照らされた幽鬼のようにも見え、


いかにも日本的な「死んだ人が、お盆に蛍になって帰って来て、ひと時人の姿になって愛した女と踊って、いつしか消えた」


ような余韻すら感じました。