男役同士のタンゴは、なぜこんなに官能的なのか『ブエノスアイレスの風』
みんなーっ
男役同士のタンゴ、お好きですかーっ!
私は大好物です!
管理人:いやーっ。男役同士のタンゴって、なんであんなにエロいのでしょうね。
紅子:そういえば海外では「男同士のタンゴ」ってあるの?
管理人:一般的にタンゴといえば男女のペア競技ですが、2013年からはタンゴ世界選手権に同性同士のペアの出場も認められたそうです。
アルゼンチン出身のニコラス・フィリペリ&ヘルマン・フィリペリは双子の兄弟。
2014年のタンゴ世界選手権で男女ペアに交じって出場、4位入賞を果たしている実力派。
NICOLÁS FILIPELI & GERMÁN FILIPELI final by Alex 2019
紅子:全く同じ顔の2人が踊っていると、ちょっと現代演劇の「分裂した自我」みたいな不思議な感覚に陥ったわ💦
管理人:この息遣いや心臓の鼓動まで伝わるような距離の近さ、会話するように絡み合うステップ。
そしてこの何とも言えない「哀愁」!「裏通り」感!
浮世舞台の花道にゃ、表もあれば 裏もある。
紅子:演歌かい!
管理人:でもタンゴの出自には、「港町」「渡り鳥の男」「酒場」「哀愁」といったド演歌な要素があるそうよ。
タンゴの歴史
タンゴの故郷はアルゼンチンの首都ブエノスアイレス。
ラ・プラタ川の河口,かつては移民船の船着場であった「ボカ地区」で生まれたと言われています。
アルゼンチンはスペインの植民地だったので、移民たちの故郷は主にスペイン、イタリア(特にジェノバ)、そしてアフリカ。
アニメ「母を探して三千里」は、イタリアの港町ジェノバに住む少年マルコのお母さんが、アルゼンチンへ出稼ぎに行ったきり音信不通になり、探しに行く話でしたね。
移民たちの故郷、ヨーロッパ大陸の音楽、アフリカのリズム、キューバの音楽などが融合して生まれたタンゴ。
新天地に夢を追って来たものの、夢破れた者。
そもそも夢などなく、貧しさや戦乱で故郷を追われた者。
「南米のパリ」と呼ばれる美しい街で、勝ち組と負け組の格差はすさまじく。
船乗りや労働者、貧しい移民たちは裏通りの場末の酒場で強い酒をあおり、明日の見えない日々を生きていた。
故郷行きの船は毎日出るのに、故郷はもう”帰るところ”ではない。
タンゴが生まれたのは、そんなニンゲンたちの吹き溜まり。
横須賀芸術劇場でのタンゴ公演の案内文より
https://www.yokosuka-arts.or.jp/blog/2019/08/23/argentinetango/
タンゴは1870~80年頃、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで生まれました。
その当時、船乗りや労働者、貧しい移民たちが集まる場末の酒場で、フラストレーションのはけ口として男同士が荒々しく踊ったのがタンゴの始まりです。
次第に相手を娼婦に代えて踊るようになり、「下品な踊り」と非難されながらも、下層階級を中心に広がっていきました。
紅子:オッサン同士で踊って、フラストレーションが解消するの?
管理人:実際移民労働者と船乗りだらけのボカ地区は、いわゆる新開地(新しく開けた市街地)で、男性労働者だらけで「普通の女性」がほとんど住んでいない。
男の相手をするのは、いわゆる”玄人”の女性たち。
圧倒的に野郎どもしかいない街で、”女神”と踊れるのは、女神のお眼鏡にかなうオトコのみ。
どっちかというと、野郎どもは憧れの女神と踊るため、男同士でタンゴのレッスンに励んでいたようですね。
その後タンゴは戦前のヨーロッパ大陸の上流階級に伝わり、洗練された「コンチネンタルタンゴ」が生まれ、
戦後はピアソラが「革命」を起こす。
タンゴ界に革命を起こしたアストル・ピアソラの功績と家族の絆/映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』本編映像
ピアソラは当初はアルゼンチンでも「こんなのはタンゴではない。これでは踊れない」「ピアソラはタンゴの暗殺者」とか言われたらしいけど、
今は宝塚でもタンゴは基本「ピアソラスタイル」になったね。
「ブエノスアイレスの風」初演時(1998年)の90年代後半は、日本でもピアソラの音楽が「サントリーローヤル」のCMに使われたりして、
「タンゴ愛好家なら知ってる」レベルを超えて、やっと大衆に認知されてきた時期だったのよ。
単語を知らなくても、タンゴで語り合える?
女:ねえ、踊らない?
男:ダンスは苦手なんだ
→初対面で見事なタンゴを披露!
女:アンタ凄いじゃない!
・・・
紅子:こんなことって、ありえる?
管理人:ショーのステージで踊るような、高難易度のタンゴとはまた別に、
初対面の男女が出会って双方が合意すれば踊って楽しむ、現代でいうクラブ文化「ミロンガ」というものがあるんだって。
タンゴダンサーが「ミロンガ」を語る
――踊りは即興なんですか?
ナオ はい。ショーやステージで踊る場合には振り付けがありますが、ミロンガでは完全に即興です。
そして、リードするのは男性の役目です。曲を聴いて、男性がその場でステップを作り、女性はそれに応えていく。
なので、ミロンガでのダンスはよく会話に例えられますね。先ほどの話の続きになりますが、女性からすると、音楽に詳しくて、曲に合ったステップを投げかけてくれる男性と一緒に踊りたいんです。
クリスチャン そして男性は、自分の出したステップに素早く反応してくれて、合わせるのが上手い女性と踊りたい。
自分が音楽に合わせて作りだす表現が、ダンスという相手とのボディ・ランゲージによって無限に膨らんでいく。そこがミロンガの面白さだと思うよ。
管理人:ミロンガでは、ダンスに誘うときは、言葉でナンパするのではなく、「目で口説く」んだって。
紅子:目と目で通じ合う♪かすかに ん・色っぽい♪
お互いに言葉もあまり通じない渡り鳥たちの共通言語が、相手とのボディランゲージによって無限に膨らんでいく「タンゴ」だったのね。
管理人:舞台表現にジェンヌ同士の「関係性」を読みたい宝塚ファンにウケるのも、もっともだね。