宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

Vシネマかよ!港町酒場演歌『ブエノスアイレスの風』感想

※『ブエノスアイレスの風』ネタバレ感想です。


まず主役が「元ゲリラ」ってどうなの



『ブエノスアイレスの風』の時代背景は、作中では明言されておらず、”1900年代なかば”と非常にざっくりした設定です。


宝塚的には、主人公が元ゲリラというのはかなり強烈な設定で、


なんで大学で法律を専攻していた弁護士志望の青年が、そんな反社会的なことをしたのか、と思われそうですね。


歴史的には、アルゼンチンで選挙によって選ばれた大統領が政治を行う民政移管が行われたのは1983年。


その直前、1976~83年の軍事政権下のアルゼンチンで,軍部や警察などが引き起こした大規模な弾圧事件は特に苛烈なもので「汚い戦争」と呼ばれています。







汚い戦争

きたないせんそう

Guerra Sucia


1976~83年の軍事政権下のアルゼンチンで,軍部や警察などが引き起こした大規模な弾圧事件。


1976年3月,軍事クーデターでビデラ政権が成立して以降,左翼によるテロを鎮圧するという名目で弾圧が行なわれた。


逮捕され,拷問などにより殺害されたとみられる行方不明者(デサパレシードス)の数は 1万~3万人ともいわれている。



連行された人々は銃殺されたり、生きたまま飛行機から海に突き落とされたそうです。


妊娠している女性の政治活動家が逮捕された場合は、見せしめとして刑務所で出産後、赤ちゃんは子どものいない軍人に養子に出され、母親は処刑された、ということもありました。



主題歌『ブエノスアイレスの風』の


「たとえ 苦しみでも いいから 生きていれば お前に 会えるだろう 今もお前だけを 自分のように 愛して いるから」


は、息子を奪われ生死不明のままとなった、何万人もの母たちの歌でもあります。



そんな軍事独裁の時代に、エリート大学生が軍に対してゲリラ反政府活動を行っていたということは、


戦後日本の、連合赤軍のあさま山荘事件等とはまたニュアンスが違うことでした。



軍事独裁の時代が終わり、選挙が行われるようになっても、格差社会の現実は続く。


経済は停滞し、鬱積がたまるジリジリした日常。



一発逆転の花火なんてあがらない。


シケた煙草の煙ただよう港町のタンゴ酒場に、ムショから出てきた男がひとり。



かつての恋人は小学校の先生になって、よりによって仲間を逮捕した刑事と付き合っているし、


酒場のママさんの息子は、親から金をせびるチンピラだし、


客と踊るホステスは「ママは病気、DV男と結婚した姉にお金をせびられていて・・・」とか言ってるし、



Vシネマ?


港町ド演歌『ブエノスアイレスの風』


かつてのゲリラ仲間リカルドのナンバーを勝手に考えてみた


”あの頃を 振り返りゃ 夢積む船で


荒波に 向かってた 二人して


男酒 手酌酒 タンゴを聴きながら


なァ酒よ お前には


わかるか なァ 酒よ”





・・・



すみません。「酒よ」の歌詞の、「演歌」を「タンゴ」に置き換えた替え歌です。


吉幾三さんごめんなさい🙇。




【カラオケバトル公式】佐々木麻衣 「酒よ」/2015.2.25 OA(テレビ未公開部分含むフルバージョン動画)




『ブエノスアイレスの風』のストーリーって、東映のVシネマ、昭和の港町ド演歌の世界でしょ。


Vシネマで、昔やくざの抗争で逮捕された主人公がシャバに出てきて、組ももう無くて、ホステスと仲良くなって、堅気になろうとがんばっていたら、


一歩先に出所してシャバに馴染めない舎弟がいらんことして、主人公が振り回される、という話、あるあるなんですよ。



紅子:あんた普段、何見ているの・・・


管理人:どっちかというと、配偶者の趣味です。




歌詞の内容は、


“海・北国・北国の漁船・酒・涙・女・雨・歓楽街・雪・別れ”がよく取り上げられ、これらのフレーズを中心に男女間の切ない情愛や悲恋などを歌ったものが多い。


また、水商売の女性が客に恋をするモチーフも頻繁にみられ、そうした接客産業の顧客層である男性リスナーを中心に、支持を得ている。


このポスターからして、昭和の日活映画とか、東映Vシネマでありそう。



まあ、以前管理人はタンゴ=南米演歌 説を提唱したのですが、




もう、ストーリーがどうこうより、


『ブエノスアイレスの風』の主役は”タンゴ”


この鋭角的なロマンティシズム。辛口の情緒。哲学的な官能。


もう、ピアソラしか勝たん。





映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』予告編




宝塚が誇るバレエダンサー暁さんが『ブエノスアイレスの風』のタンゴに挑戦するということは、


オペラ歌手が演歌に挑戦!みたいな、表現力を広げるための勉強企画だと思えば、楽しかったです。


(でもVシネマだよな)