贔屓退団後のラブシーンはどこまでアリ?彩吹真央『フリーダ・カーロ』感想
元宝塚男役の彩吹真央さんが主演するミュージカル『フリーダ・カーロ』を配信で視聴しました。
メキシコを代表する女流画家フリーダ・カーロ。
沢山の男と浮名を流し、自らをキャンパスに描き込んだ。
バスの事故で脊髄を損傷し、その大半を激痛と共に過ごした華々しくも痛々しい彼女の人生。
彼女を取り巻く人々の証言から浮かび上がる彼女の本当の姿。
そして彼女が語る真実。
誰よりも生に執着しながら死を願った彼女が辿り着いた人生の終わり。
死者の魂を迎える死者の日に彼女を迎え、語り合う祝祭劇。
激しく燃えたフリーダの魂を解き明かしていく/映画『フリーダ・カーロに魅せられて』予告編
「リボンで包んだ爆弾」フリーダ・カーロの生涯
フリーダ・カーロは、20世紀前半のメキシコで活躍した女性画家。
当時のメキシコの最高教育機関(日本でいう東大みたいなところ)に女子が入学を許可された1期生に選ばれたという、たいへん利発な少女でした。
子供の頃ポリオに罹患した後遺症で、右足の発育が止まる障害をかかえていたうえに、通学に使用していたバスが路面電車と衝突し、フリーダも生死の境をさまよう重傷を負って、3か月の間ベッドの上での生活を余儀なくされました。
痛みと病院での退屈な生活を紛らわせるために、本格的な絵を描くようになったところ、20歳も年上の画家、ディエゴ・リベラと出会います。
ディエゴはフリーダの感性に感銘を受け、フリーダも当時すでにメキシコを代表する大画家であったディエゴの才能を尊敬し、
2人は周囲の反対を押し切って結婚。
ディエゴはたいへん女性癖が悪く、しまいにはフリーダの妹と関係を持つような、とんでもない男。
フリーダも痛みで寝ている時は癇癪を起して当たり散らし、体調が回復したら日系アメリカ人芸術家イサム・ノグチと駆け落ちしたり、スターリンに追われて亡命していたトロツキーと逢引したり、奔放に女の性を謳歌していて、
令和の芸能人コンプライアンスからすると、文春砲も匙を投げそうな
なんであんたたち、離婚しないの?
ディエゴとフリーダは熱心な共産主義者で、双方とも「伝統的な価値観を遵守すべし!」と思っていない節があり、
ディエゴはアメリカに招かれ、ロックフェラーセンター(アメリカ資本主義の象徴のようなところ)の壁画作成の仕事を依頼されて、
なんと壁にレーニンの肖像を書き込む(結局壁は破壊された)というロックンロールな人。
フリーダも、少女時代の交通事故の後遺症で子宮を損傷しており、ディエゴの子を妊娠しては流産を繰り返したのですが、
彼女は流産した胎児の姿を、その子が生きた証としてスケッチし、自画像に書き込んでいます。
ディエゴは、妻の不倫は咎めるのですが、妻が流産した子をスケッチするのは止めませんでした。
戦前の1932年ですよ。当時女性は「美しく、しとやかに、愛らしく」「描かれる対象」であるのが普通だった時代に、ディエゴは妻の才能を評して
彼女は女性特有の、あるいは女性に普遍的なテーマを、仮借の無い率直さと冷徹な厳しさをもって描いた、美術史上最初の女性である。
才能ある芸術家同士(しかもどちらも画家)で結婚すると、異性に対する愛と、互いの才能への嫉妬で、難しい関係になりそうですが、
ディエゴは「リボンで包んだ爆弾」のような妻の芸術の、一番の理解者であったんですね。
ジェンヌの身体表現の強み
宝塚の男役さんが退団し、女優として「ラブシーン」を演じる時、ファンとしてはやきもきしますよね。
今回の舞台「フリーダ・カーロ」は、そもそもの主題が「女という性に生まれたゆえの葛藤、痛みを隠さず描いた最初の女性画家の人生」なので、フリーダの両手でも収まらないほどの不倫遍歴も表現されますが(男女だけでなく、女性同士の関係もあり)
彩吹さんは、元男役らしい挑むような目力、メキシコの野趣を感じるパンチの効いた歌唱、
濃厚なラブシーンでもダンス力を生かして、エロティックながらも卑猥に堕ちない、「私の肉体は私のもの」と歌い上げるような身体がとても魅力的でした。
宝塚でバレエ、モダン、ワルツ、フラメンコ、タンゴに日舞、「ショースター」としてお客の前で踊って鍛えた身体表現は、大きな財産ですね。