宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

『エクスカリバー』正直感想


なぜ宝塚で二次創作の同人誌モーガン(真白)×マーリン(若翔)を上演するのか




6世紀の英国、暗黒の時代。


英国王ウーサー・ペンドラゴン亡き後、サクソン族が王を失った英国を植民地にするため残虐な戦争を起こす中、ドルイド教の魔法使いであり預言者のマーリンは、混沌の時代に終止符を打つことができる新しい王、アーサーを王座に就かせるために長年の計画を実行に移す。


自分が王族であることを知らずに平凡に成長したアーサーは、マーリンから自分の運命を知らされ、石に刺さっていた聖剣エクスカリバーを引き抜いて、英国の新しい王として崇められる。


最も信頼できる親友であり、優れた実力を持っている騎士ランスロットらとともに、キャメロン城を築き、サクソン族との偉大な戦いに挑むアーサーは、勇敢で聡明な女性グィネヴィアと出会い、恋に落ちるが・・・。


「アーサー王伝説」は、日本で言えば古墳時代、史実と神話の境目の時代であった6世紀に、グレートブリテンに実在したかもしれない伝説の王をモデルにした物語の総称です。


司馬遷とか紫式部のような絶対の「公式」というものは無くて、中世の貴族のご婦人がお抱えの吟遊詩人に


「私はランスロット推しだから、ランスロットとグィネヴィアの不倫をメインにした2次創作を弾き語りしてちょうだい。」


と、現代のpixivなど二次創作サイトで、好きな絵師に好みのカップリングの薄い本(同人誌)をリクエストするノリで書かれていったお話の総称がアーサー王伝説と呼ばれています。


宙組の別箱「大逆転裁判」に登場する夏目漱石は、アーサー王伝説を日本で初めて一般読者向けに紹介したことで有名です。


タイトルは『薤露行』(かいろこう 葉っぱについた露は儚く消える、という意味)』


小説には、モーガンも、マーリンも、エクスカリバーも出てきません。


テーマはずばり、「グィネヴィアとランスロットの不倫」

「行く か?」 とは ギニヴィア の 半ば 疑える 言葉 で ある。 


疑える 中 には、 今更 ながら 別れ の 惜 ま るる 心地 さえ ほのめい て いる。 


「行く」 と いい 放っ て、 つかつか と 戸口 に かかる 幕 を 半ば 掲げ た が、 やがて するりと 踵 を 回ら し て、 女 の 前 に、 白き 手 を 執り て、 発熱 かと 怪しま るる ほどの あつき 唇 を、 冷やか に 柔らかき 甲 の 上 に つけ た。 


暁 の 露 しげき 百合 の 花弁 を ひ た ふる に 吸える 心地 で ある。


夏目 漱石. 薤露行 青空文庫. Kindle 版.


”グィネヴィアとランスロットは、明け方の露に濡れた百合の花びらをひたすらに吸うような心地の・・・”


紅子:文豪が語彙力を駆使して、英国文学の古典の不倫の部分だけを昼メロ風に改変して、何をやっているんですか!


漱石:読者が求めるのは、これなんだよ!



「アーサー王伝説」とは、偉大な文豪の文学というよりは、1,500年以上にわたって二次創作の元ネタとして楽しまれてきたものであり、


正直「真面目な寝取られ男」アーサーよりも、


不倫する側のランスロットとか、魔法使いマーリンとか、こじらせ女子モーガンのほうが、二次創作のしがいがある、というものです。(夏目漱石からしてそうですし)


宙組版「エクスカリバー」ではおもに3つのカップルが描かれていますが、



・アーサー(芹香)とグィネヴィア(春乃)内閣府が作成した、男女共同参画社会についてのパンフレット


・ランスロット(桜木)とグィネヴィア(春乃):滝つぼの密会!?文春砲が不倫”疑惑”をスクープ!!


・モーガン(真白)とマーリン(若翔)韓流昼ドラ「血の宿命」


出生の秘密、幼い頃憧れた先生に監禁された!


死んだと思っていた腹違いの弟は、実は生きていた!?


修道院で、恋心と復讐心をドロドロ煮詰め続けたこじらせ女子は、出所後どうする!?




宝塚的とかお役所の価値観で言えば、上段のカップルのほうが大事なことだと思うのですが、


韓流エンタメって


「綺麗ごとは抜きにして、金を払ってでも読みたい!見たいものはどれですか?あなた、こーゆーお話、好きでしょう?」


と、どーんとストレートに攻めてくるところがありますよね・・・


個人的には、見ていて楽しかったのですが・・・


普段、宝塚の座付き作家のトンチキを見て「あちゃー」はあっても、感想文はすぐ書けるのです。人に寄りますが、作者の想い、テーマといったものを消し切っていませんから。そこがアマ臭さが残っているのかもしれませんが。


韓流エンタメ「エクスカリバー」って、伏線の貼り方とか回収とか、宝塚の座付きの(ノ∀`)アチャーよりはよほどエンタメとして振り切っていて、見ている者を引き付け続ける怒涛の展開は凄いと思うのです。


ただ、見た後で「この作家はこの作品を通じて何を言いたいのか」を考察する感想文を書こうとすると、つるーんとして手をかけるところが無いロッククライミングの壁を見ているような・・・


プロとして技術点はとても高く、客を楽しませるのに「作家の想い」など不要!な姿勢に徹していて、お見事!とは思います。





追記:ドルイドって?


個人的にこの話のテーマは


「古いドルイド教よ、さようなら。新しいキリスト教、ばんざい!」


なのかなあ、と思いました。


作品中に出てくるドルイド教とは、架空の宗教というわけではなく、先住民ケルト人の自然崇拝とか生贄とか占いとか呪いとかの風俗・しきたり・言い伝えなどのことをドルイド教と呼ぶことがあるそうです。


エクスカリバーの時代は、6世紀。日本で言えば古墳時代。日本ではちょうど仏教が伝来した時代。


グレートブリテン島でも、土着のドルイド教社会にキリスト教が徐々に広まっていた時代です。


アーサーの父親や、魔法使いマーリン、姉のモーガン世代は、「黒魔術」「復讐」「血の宿命」にとらわれていてドロドロで、


アーサー世代になると、妻や親友が過ちを犯すけれども「赦し」たり、円卓で会議して物事を決めたり、のちにキリストの遺物の聖杯探しに出発したりと、ドルイドの伝統から離れて、キリスト教的な新しい先進的な考えで生きることを模索するような描写になります。


後世に生きているイギリス人や韓国のキリスト教徒は、基本「グレートブリテンにキリスト教が伝わったのは良かったことだ」と思っているでしょうから、古いドルイド教側はドロドロで、アーサー達はスマートな描写になるのでしょうか?