シラノは誰と喧嘩しているのだろうか
シラノ・ド・ベルジュラックは実在した
ちょうど今、エドモン・ロスタンが『シラノ・ド・ベルジュラック』を創作するまでのいきさつをネタにした映画が公開されています。(うどん県では公開されていないのです(涙)地方の文化格差・・・都会はいいなあ)
『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい』11/13(金)公開!
『シラノ・ド・ベルジュラック』は三銃士の時代に活躍した同名の実在の人物をモデルに、ちょうど「ピガール狂騒曲」と同時代の1897年に初演され大ヒットしたエドモン・ロスタン作の戯曲です。
シラノは何と喧嘩しているのか?
劇中では、シラノは、役者の芝居が気に喰わんとか、やたら因縁をつけて喧嘩を吹っ掛けるおっさんで、正直
いい年をして何をしているんだか・・・
感があるのですが、実在のシラノはもっとスケールのデカい喧嘩をする人物だったそうで。
1633年にガリレオ・ガリレイが地動説を唱えたことで教会から異端尋問を受け、
ニュートンの万有引力についての考察(リンゴのあれ)が1666年頃(奇しくもペストによるロックダウンで大学閉鎖で外出自粛の頃)
の時代、
1657年 シラノ、ロケットで月に行く話を書く
- 日月両世界旅行記 (岩波文庫)
- 岩波書店
- 本
『日月両世界旅行記』は、月世界と太陽,ロケットや気球まがいの着想、鳥の王国、別世界の住人との対話など、奇想あふれる二篇の滑稽譚、天地創造、霊魂不滅とキリスト教思想の枠を次々に破壊し、17世紀フランスの社会と制度を痛罵する、大胆な諷刺と政治観―自由思想の風雲児、〈鼻のシラノ〉の、SFに先駆けるユートピア小説、代表作。新訳。
上記Wikiによると
最終的に主人公は、さまざまな偶然もあって、ロケットを六つあわせて一段となし、それを何段にもわたって配置した装置で天高く舞い上がり、月へと到達する。
一段目のロケットが燃え尽きると、二段目に点火し、二段目が燃え尽きると、三段目に点火というように、主人公の身体は急速に加速されていく。
火薬は早くに全て燃え尽き、ロケットなどの装置は全て地上に落下したものの、主人公の身体だけは、なおも月に向かって進んでいく。地球を遠く離れ、やがて月に近づくにつれ、主人公は月に向かって徐々に落下していくのを感じる。主人公は「地球に引力があるように、月にも引力があるのだろう。月は地球よりも質量が小さいので、その影響する範囲も小さく、月に近づいたことによって、やっとその力を感じることができたのだろう」と、ひとりつぶやく。
シラノは、地動説を否定する、聖書原理主義的なものに喧嘩を売っていたのか・・・デカい喧嘩だなあ・・・
そして、同性愛への偏見
ここからは、原作の戯曲を読んでみた感想です。
劇中では、シラノがロクサーヌへの思いを打ち明けられない理由は「巨大な鼻にコンプレックスがあるため」となっておりますが、
どうもこれ、1つの隠喩らしい。
この原作本の解説によると、実際のシラノ・ド・ベルジュラックは同性愛者であったそうです。
シラノ・ド・ベルジュラック (光文社古典新訳文庫) [ エドモン・ロスタン ] 価格:1,078円 |
今でこそ、LGBTという概念が広まり、宝塚でトップ男役が女性役で「男でも女でも、どっちでもいいじゃない!」という時代ですが、
シラノが生きた時代は、同性愛者は聖書の教えに逆らう者。20世紀になってさえ、ナチスのホロコーストの主な対象はユダヤ人と、ロマと、同性愛者であった。
劇中では、シラノはクリスチャンに成り代わって恋文を代筆することになるわけですが、原作の言葉だけを読んでいると、
シラノ ( クリスチャン を じっと 見 て) 俺 の 真情 を 語る のに、こんな 男 が 居 て くれ た なら!
クリスチャン ( 絶望 し て) 華やか な 弁舌 が 欲しい!
シラノ ( 唐突 に) 貸し て やる よ、 俺 が! 君 は、心 惑わす 美しい その 肉体 を 貸し て くれ。 俺 たち 二人 で、恋 物語 の 主人公 に なろ う!
(中略)
さあ、 受け取れ。 この 偽り を、 真実 に 変える のは 君 だ。 俺 は 当て も なく、 恋 だ 嘆き だ と 書き 散らかし た が、 彷徨 う 鳥 の 留まる のを、 君 は 見る こと が 出来る 人 だ。
ロスタン. シラノ・ド・ベルジュラック (光文社古典新訳文庫) (Kindle の位置No.1954-1956). 光文社. Kindle 版.
なんか、クリスチャンへの視線がエロいんだよねえ・・・
私は贔屓を好きになると無意識に、「自分が贔屓になりたい」という欲望が働くらしいのですが←
BLのことはさっぱり門外漢なのですが、三角関係で恋敵同士の男性の間に、嫉妬と憧れがないまぜになった、「俺はあいつになりたい」という欲望が働くことってあるのかな?