宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

ヴェネチアの紋章 秘密機関「CDX」の真実の顔はCIA?


「 C・D・X」は秘密警察ではない


このお話の舞台は1530年ごろ(日本は室町時代、鉄砲伝来の少し前)、


かつて”旧世界”地中海交易で栄華を誇ったヴェネツィアも、貿易の中心が大航海時代の波に乗って”新世界”でぼろもうけする「日の沈まない国」スペイン(ハプスブルク家のカルロス1世)に移り、壮麗帝のオスマントルコに挟まれ、衰退の兆しが見えていた。


当時のヴェネツィアは、スペインのような国王が絶対の権力を持つ「絶対王政」ではなく、名門貴族が世襲の議席を持つ議会「元老院」と、名門貴族から選ばれた「元首」が国を治めていました。


が、今も昔も、議会で意見をまとめるのは大変な時間がかかる。緊急事態に議会でいつまでもあーだこーだしていては、迅速に対応できない。


そこで

ヴェネツィア 共和国 は、 近年 の 共和国 として は 強力 な 共和国 で ある。 そこ では、非常時 には、 共和国 国会 や 元老院 での 一般 討議 に かけ ず に、 権限 を 委託 さ れ た 少数 の 委員 の 間 で 討議 する だけで、 政策 を 決定 する 方法 を とっ て き た。  


十六 世紀 ヴェネツィア の「 C・D・X」 の 真実 の 顔 は、〝 権限 を 委託 さ れ た 少数 の 委員 の 間 で 討議 する だけで 政策 を 決定 する〟 こと に あっ た。


しかし、 国家 に対する 陰謀 を 未然 に 防ぐ という 任務 は、 国家 の 安全保障 を 担当 する という こと に、 当然 の こと ながら つながっ て くる。 


そして それ は、 この「 十人 委員会」 に、 あらゆる 最高 機密、 あらゆる 最新 情報 が 集まっ て くる という こと でも あっ た。   


極秘 の 情報 が 集まる よう に なれ ば、 極秘 の 指令 を 発する よう に なる のも 自然 の 勢い。 すべて は、 ヴェネツィア 共和国 という、 国家 の 安全保障 に 関係 し て くる からでからで ある。 


十六 世紀 ヴェネツィア の「 C・D・X」 が、 二十世紀 アメリカ の「 C・I・A」 を 連想 さ せる もの に 変わっ て いっ た のも、 この 種 の 機関 の 宿命 で あっ た。   


だが、「 C・D・X」 は、 C・I・A よりは ずっと 強大 な 権力 を もっ て い た。 


塩野七生. 小説 イタリア・ルネサンス1―ヴェネツィア―(新潮文庫)より引用


説明セリフにたじろがないで

通商国家ヴェネツィアでは、ヨーロッパやアラブの各都市に商館を置き、そこで得た情報を
暗号(アルファベットを音符に置き換え、楽譜に見せかけて送るなど)を駆使して集約したのが諜報機関「 C・D・X」(十人委員会)


原作での主役は、ヴェネチアの命運を握る「 C・D・X」の10人の委員に30歳の若さで選ばれたマルコ(綾)。彼は、外交官というよりは、オスマントルコ側の情勢について探る密命を受けた「スパイ」である。


スペインに狙われているヴェネツィアとしては、オスマントルコと平和を保ち、いっそ壮麗帝がオーストリア(ハプスブルク家。国王はスペインのカルロスの弟)に侵攻してくれたほうが、正直都合がいい。


でも、キリスト教国のヴェネツィアが、イスラムのオスマントルコ側に表立って付いたら、ヨーロッパ中から総スカン・・・


ここで、ヴェネツィアの元首の息子(でも私生児)で、トルコの壮麗帝や大宰相イブラヒムと親しいアルヴィーゼ(彩風)はどう立ち回るのか?



情報は、情報そのものだけではまだ価値が無い。情報の「解釈」に価値がある。


この舞台は、西洋版歴史大河ドラマですが、「合戦シーン」はほとんど出てこず、外交官達による情勢分析シーンが多いので、初見では面食らうかもしれません。


「ヴェネチアの紋章」の原作は、後世の作家塩野七生が「 C・D・X」が残した膨大な秘密文書を読み解き、読者を1530年当時にタイムスリップさせ、刻々と変わる情勢の中で、マルコと共に本音を見せないアルヴィーゼの真意を探る、


歴史小説の形を借りた「スパイ小説」のつくりです。


でも、さすがの柴田先生。マルコが何を言っているかがわからなくなっても、主役アルヴィーゼがカッコイイことは決して揺るがないから、


大丈夫!






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