『ヴェネチアの紋章』感想身捨つるほどの祖国とは 誰がアルヴィーゼを殺したの
マッチ擦る つかのま海に 霧ふかし 身捨つるほどの 祖国はありや
寺山修司
あらすじ
貴族の女は、ヴェネツィアでは「妾の子」と呼ばれた男を愛した。
男は海の向こうのトルコへ向かった。
トルコでは「ヴェネツィア宰相の息子」と呼ばれた。
男は女の愛にふさわしい男になろうと、ハンガリーへ向かった。
ハンガリーでは「トルコ野郎」と呼ばれた。
ヴェネチアとトルコの双方の為に尽くした男は、どちらからも見捨てられ、ハンガリーで野の石の下に眠ることになった。
女は霧の海の蝶になった。
欧州世界を揺るがした男の行く先は天国か、地獄か。そこに女はいるのだろうか?
と思っていたら、ラストのスモークに包まれた2人のデュエットダンス・・・
懐古趣味と言わば言え。私は泣いた。
誰がアルヴィーゼを殺したの
「ヴェネチアの紋章」」の原作である塩野七生小説 イタリア・ルネサンス1―ヴェネツィア」が世に出た時の最初のタイトルは「聖(サン)マルコ殺人事件」
聖マルコとはヴェネツィアの守護聖人のこと。この物語は、聖マルコ広場で死体で発見された警官の死の真相を、若き元老院議員マルコ(綾)が追うことで始まり、スペインやオスマントルコが出てきて話が壮大になってくるが、結局オチは
アルヴィーゼ(彩風)はヴェネチアとトルコの2重スパイ。
マルコはヴェネチアのスパイ。
高級娼婦オリンピア(夢白)はスペインのスパイ。
ということが判明する。
国を愛するがゆえにスパイを引き受け、原作では皆国を追われる。
”身捨つるほどの 祖国はありや”
アルヴィーゼを殺したのは、彼に紋章を与えなかった聖マルコ=ヴェネツィアであった、という意味の「聖(サン)マルコ殺人事件」という原タイトル。
ラスト、ハンガリーで敵に囲まれ、「四面楚歌」の場面で、ヴェネツィアからもトルコからも見放された現実を、ズンとした立ち姿で受け止めるアルヴィーゼ。
彩風咲奈はナポレオンの時も思ったけれど、無言で「仁王立ち」でいるときが一番雄弁だねえ。
歌舞伎では女形に対する男役は「立役」というそうですが、
柚香は表情で、望海は歌で、礼はダンスで、真風は仕草で、
そして綾風は超絶スタイルと鍛えあげたダンス力によって「動かない」佇まいで語る、という表現者として稀有な領域に達してしているのではなかろうか。