宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

風間 バウポスター!「ジャズを弾いたら即収容」の時代を生きたピアニスト







『LOVE AND ALL THAT JAZZ』

…ベルリンの冬、モントリオールの春…

作・演出/谷 正純

ナチス政権下で退廃音楽として禁止されたジャズを愛し、ユダヤ人の娘を護る為に命を懸けて戦ったドイツ人ジャズピアニストを主人公に、時代を覆う閉塞感に敢然と立ち向かう若者の姿を、ジャズの名曲に乗せて描くミュージカル作品。


第二次世界大戦下のベルリン。かつてジャズの生演奏で欧州中にその名を轟かせたキャバレー「レベル」では、ジャズピアニストでもあるルーカスが、父から受け継いだ店を一人護り続けていた。


ある時、店へ逃げ込んできたユダヤ人の娘レナーテを気まぐれに匿ったことで、ルーカスの運命が動き始める。ジャズの演奏すら禁止される祖国の歪んだ現状に反発し、突如レナーテと共に自由に生きられる国へ旅立つことを決意。


偽造屋から身分証を入手したルーカスは、かつて同じ音楽院で学んだ友人でもあるナチス親衛隊ゾマー少尉の猛追を受けながらも、仲間のミュージシャンが集うパリ、そして彼女の祖父が住むカナダを目指して旅を続ける。そんな彼らを待ち受けるものとは……。

あらすじを拝読すると、「ベルリン・わが愛」みたいな作品かな?



星組公演『ベルリン、わが愛』『Bouquet de TAKARAZUKA』初日舞台映像(ロング)


ナチス政権下でユダヤ人が迫害されたのは有名な話ですが、


なんでジャズはあかんの?


理由はナチスに「健全なアーリア人の精神にとって有害・退廃的である」とみなされたためで、ナチスに言わせると


・黒人文化の影響を受けている(ジャズ)
・ユダヤ系作曲者(メンデルスゾーン シェーンベルク マーラー クルト・ヴァイルなど)
・社会主義者が作曲した
・前衛的過ぎて意味わからん(ストラヴィンスキー)


音楽が「退廃的」だとされたそうです。音楽そのものというより、作品の背景の文化や作者の人種が問題にされたわけですね。


現代では、教科書に載っている革新的な作曲家ばかりですし、ジャズなんて寿司屋でも普通に流れていますからピンとこないのですが、


当時彼らの音楽はドイツの一般的大衆に「前衛的過ぎて意味わからん」と思われていて、ナチスはその心理をうまく突いたそうです。(母曰く、ビートルズだって、1960年代の地方の公立中学では「ビートルズを聞いたら不良になる」って指導があったらしい)



端的に言うと、


ピカソより 普通に ラッセンが好き


の心理を利用した。

300ピース ジグソーパズル ラッセン ブランカ 【光るパズル】 (26x38cm)
300ピース ジグソーパズル ラッセン ブランカ 【光るパズル】 (26x38cm)
エポック(EPOCH)
おもちゃ


(芸人の永野やラッセンを揶揄する意図は全くありませんよ)


ナチス「退廃芸術展」



「アーリア民族」の優位性を説き、ドイツ国内の統合はもとより、ヨーロッパ支配さえもくろむヒトラーとナチスにとって、ギリシア、ローマ以来のヨーロッパの伝統に基づく古典主義の美術は、いわばドイツ・ナショナリズムのイデオロギー装置として必要不可欠なものであり、とりわけドイツ古典主義の美術こそが、模範とするに足る芸術であった。


したがって、これに反する近代美術は、すべて「退廃美術」として排斥されるべきものとみなされたのである。1937年7月19日に始まった「退廃美術展」は、3か月の開催期間に200万人を超える入場者を記録した。


会場を訪れた一般の人々は、自分たちが生活にあえいでいるときに、かくも愚劣な絵や彫刻に公金が浪費されていたことに憤激を禁じえなかったとされる。展示作品の横に貼(は)られた赤い紙片にはナチスの手によって「働くドイツ民衆の税金から支払われた」という文字が印刷されていたからである。


「ドイツの感情を傷つけ、あるいは自然形態を破壊ないしは混乱させる、つまり、仕上げの工芸的、美術的な能力欠如を明らかに示す」作品に対するナチスの政治的攻撃はみごとに成功したのであった。


そして「モンドリアン」や「カンデンスキー」の絵は「こんな子供の落書き見たいな絵が〇億円!」と「さらしもの」にされる。




芸術の公開処刑⁉ナチスドイツの美意識 VS モダンアート 10/2(金)公開『ある画家の数奇な運命』



解説者:彼らには草原が青、空が緑、雲が黄色に見える。彼らに言わせれば、”体で感じる”と


考えられる原因は、目の障害か?事故によるものか、遺伝なのか調べなくては。


前者の場合は、本当にお気の毒です。後者の場合は、内務省の管轄となりましょう。恐ろしい障害が、子孫に遺伝していくのを阻止しなくては。


これは芸術ですか?魂は昇華されますか?技を感じますか?芸術には技が必要です。


これでカンデンスキーが手にしたのは2000マルク。労働者の年収を上回ります。


坊や、パパの仕事は?

 


少年:パパは仕事が無いの。


解説者労働者の納めた税金から、この報酬が支払われました。

※内務省:ホロコーストの担当部局

「こんな子供の落書きみたいな絵で〇億円!」プロパガンダ作戦



ともあれ、このネタが受けているということは、「ピカソより普通にラッセンが好き」という感覚が、人々がある程度共感できるものだ、ということの証だろう。


 その背景には、「ラッセンよりピカソの方が偉いってことになってるけど、よく分からない」「ピカソの絵って本当にうまいの?」「きれいなの?」「ぶっちゃけ、ラッセンみたいに細かくちゃんと描いている絵の方がうまくね?」といった、一般人の本音があることは想像できる。



ピカソに限らず、前衛的な表現には、その衝撃によって人々の覚醒をうながし、社会や芸術のありようを再検討するように仕向ける意図が含まれている。ピカソは意図的に伝統的な審美眼を挑発し、否定しようとした。だから、わざと「美しい」と思えない絵を描いた。普通の人がピカソの絵を見て「美しい」と思えないのは当然なのだ。


 西岡氏の表現によれば、ピカソの実験的な絵とは、美術の世界が従来の「美」の基準を否定した中で、美術界での評価のみを求めて描かれた「学術雑誌の論文みたいなもの」なのである。


前衛芸術の「従来の美の基準を挑発し、否定する」精神への「普通」の大衆の戸惑いを、ユダヤやアフリカといった異文化、異人種への憎悪に結びつけるナチスの巧妙なプロパガンダ作戦。(ピカソの絵にもアフリカン・アートの影響がある)


この文脈で、アフリカに起源を持ち、黒人や東欧系ユダヤ人の音楽家たちに演奏されて発展した「ジャズ」も弾圧されたわけですね。