宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

柳生忍法帖=くのいちアベンジャーズ?面白くて拍子抜けした感想



※おもいっきりネタバレ感想です。


意外と面白くて拍子抜けした(笑)


紅子:最近、こんちゃんさん、平日午後の宝塚の配信をよく見ているわね。


管理人:うちの職場、1年に5日以上有給休暇を取らないといけないというルールになって、


有給も1日単位でなく、1時間単位で取れるようになったの。


で、私の仕事のシフトが、昼休みが13時~14時なので、14時から1時間有休を取れば、職場の駐車場の自家用車の中で、タブレットで宝塚大劇場の13時からの千秋楽のお芝居だけなら見られるのよ。


ショーはあきらめて仕事に戻っているけどね。


紅子:「柳生忍法帖」見たのね?正直どうだった?


管理人:いやーっ、SNSでの評判を見ていて、ある意味怖いもの見たさで臨んだら、


意外と面白くて拍子抜けした。


紅子:へっ?面白かった?!アンタもっとコテンパン批評を書くかと思っていたわ。


管理人:まあ、ツッコミどころも多いんだけどね。SNSの流れを見ていると、この作品を褒めるのも勇気がいるんだけど(汗)


話がわかりにくい理由1:タイトルに偽りあり


管理人:まず「柳生忍法帖」というタイトルが内容と違うのよね。英語だと "The Yagyu Ninja Scrolls" 


”ヤギュウの忍者の巻物”


ってタイトルなのに、劇中に忍者も忍法の巻物も出ないし。


紅子:タイトルに偽りありだわ。


管理人:このお話を動かす原動力は、柳生十兵衛よりもむしろ、バカ殿、加藤明成と敵対して皆殺しにされた、堀一族の女たちの復讐譚なのね。


『アベンジャーズ 7人の女たちと柳生十兵衛』


って感じのタイトルのほうが、主題は伝わったと思うわ。


紅子:ハリウッドの低予算パクリ映画みたいなタイトルね。




柳生忍法帖公式あらすじ


暴政を敷く会津藩主・加藤明成を見限り出奔した家老・堀主水の一族に、復讐の手が迫る。


明成は堀主水の断罪だけでは飽き足らず、幕府公認の縁切寺・東慶寺に匿われた堀一族の女たちをも武力をもって攫おうとする。


しかしそれは、男の都合に振り回された生涯を送り、女の最後の避難場所として東慶寺を庇護してきた天樹院(豊臣秀頼の妻であった千姫)には許しがたい事であった。


女の手で誅を下さねばならぬ。


そう心定めた天樹院は、敵討ちを誓う女たちの指南役として、密かに一人の武芸者を招聘する。


将軍家剣術指南役の嫡男ながら城勤めを嫌い、剣術修行に明け暮れる隻眼の天才剣士、柳生十兵衛。女たちを託された十兵衛は、死闘を繰り広げながら会津へと向かう。


待ち受けるのは、藩を牛耳る謎の男・芦名銅伯と、銅伯の娘で明成の側室ゆら。果たして十兵衛たちは、凶悪な敵を打ち倒すことが出来るのか…。


管理人:ポスターにはカッコイイ柳生十兵衛がいて、観客も「これは柳生十兵衛がメインで敵をバッサバッサ倒す話」と思うじゃない。


でも幕が開けば、メインで戦って敵にとどめをさすのは7人の女性たちで、柳生十兵衛は後ろで指示しているだけ、みたいなシーンが多いから戸惑うよね。


話がわかりにくい理由2:「女の手で誅を下さねばならぬ。」のセリフの重みが伝わり切ってない


管理人:山田風太郎の作風は、表面的なエログロ描写の多さから、存命中は文壇から大衆迎合、通俗的な面白いだけの作家と思われていたんだ。


宝塚版『柳生忍法帖』では、原作のエログロはほとんど排除され、チャンバラシーンも原作のハリウッド映画のような天外魔境 荒唐無稽なアクションではない。


そこで浮かび上がるのは、意外にも柳生十兵衛の骨のある健全な価値観なのね。


男たちの始めたいくさで、女たちは男の忠義や天下の法に振り回され、夫や兄弟、息子を殺され、


生き残った女たちは、勝った側の男の”温情で”尼寺に行き、その悔しさを秘めて弔いの日々。


紅子:女たちには忠臣蔵の浪士たちのように、復讐すら許されなかったのね。


管理人:そんな時代を舞台にした小説で、男の都合に振り回された生涯を送り、女の最後の避難場所として東慶寺を庇護してきた天樹院の


女の手で誅を下さねばならぬ。


ってすごいセリフですよ。


紅子:そのテーマが、冒頭10分の登場人物がわらわら、聞きなれない固有名詞が飛び交う説明セリフてんこ盛りの中で、流れちゃった感があるわね。


本作の真骨頂セリフ:「徳川なんて滅んで結構」


管理人:作品の骨格には、原作者山田風太郎が太平洋戦争を経験し、当時医学生で出征はしなかったが、戦時中と戦後で社会の価値観が180度変わった体験があるのね。


昭和20年1月1日には「日本という国家の体制の存続のために、国民は死ね」


と言われていたのが、


昭和20年12月31日には、GHQが「戦争中の価値観は間違いでした、人の命は地球より重いです」キャンペーン。


昭和20年12月31日、山田風太郎青年は「はいそうですね」と言えなかった。



『戦中派不戦日記』は昭和20年の日記だ。いぶし銀のように黒光りしている。


1月1日に「運命の年明く。日本の存亡この一年にかかる。祖国のために生き、祖国のために死なんのみ」と綴り、


12月31日に「日本は亡国として存在す。われもまたほとんど虚脱せる魂を抱きたるまま年を送らんとす。いまだすべてを信ぜず」と結んだ。


一切の削除も添削もせず、この不戦日記が公刊されたときは、当時の作家も知識人もマスメディアも頭(こうべ)を下げるしかなかった。


管理人:作中で、「女の仇討ち」が沢庵和尚に支持され、柳生十兵衛という助っ人も得て、仇討ち成就まであと1歩、というところで、衝撃の事実が発覚!


敵方のボスである芦名銅 伯と、徳川家の守護神と言われる天海 僧正は実は双子で、


「しかも、 ただ の 双生児 では ない。 同じ 日 に 生まれ た 両人 は、 同じ 日 に 死ぬ と いう。 銅 伯 を 殺せ ば、 天海 僧正 も 死ぬ と いう。 」


衝撃の真実!


紅子:敵のボス、芦名銅伯を殺せば、徳川の守護神、天海 僧正も死んでしまう!


沢庵和尚:「僧正 は、 徳川 家 にとって 守護神 の ごとき 大 柱石、 のみ なら ず、 かんがえ て みれ ば…… 僧正 は ちかく 将軍家 に 天台 血脈 の 大儀 を とり 行なわ せ られる。 


その 天海 僧正 を 盾 とさ れ ては、 もはや、 われわれ は 刀 を 捨て ざる を 得 ない の じゃ。…… きい て おる か?   わかっ て くれる か?」

管理人:当時の価値観では、個人の正義と、天下国家の正義を比べれば、天下国家が圧倒的大事!


「徳川の安定のためには、女たちの理不尽はわかるが、お国の為に復讐は諦めてくれ。」


だのに十兵衛は、

柳生十兵衛:「あの 女 たち を 見殺し に し て、 なん の 士道、 なん の 仏法。 仏法 なく し て なん の ため の 天海 僧正、 士道 なく し て なん の ため の 徳川 家 で ござる。 


もし、 あの 可憐 な 女 たち を 殺さ ずん ば、 僧正 も 死な れる、 徳川 家 も 滅びる と 仰せ ある なら、 よろしい、 僧正 も 死な れ て 結構、 徳川 家 も 滅ん で 結構。


 ─ ─ 和尚、 和尚 の ふだん の 御 教え は、 左様 では あり ませ なんだか」


山田 風太郎. 柳生忍法帖 

お国の為に女を見殺しにして、なんのお国だ!そんなお国、滅んじまえ!なんと痛快なセリフ!


紅子:昭和20年8月15日以前にこんな啖呵を切ったら、無事ではすまなかったよ!


管理人:原作を読んだ時は、エログロに気を取られてこのテーマの重みに気が付かなかったわ。脚本・演出の大野 拓史先生、新しい発見をありがとう。


紅子:こんちゃんさんは原作を読んでいたから、そこに気づいたんだろうけど、原作未読の方がいきなり舞台を見てどう思うかよねえ。  


管理人:そこなのよ。予習しちゃうと、予習せずに舞台を見るという体験は一生できなくなるからね。


でも、「説明不足だからもっと説明セリフを増やそう」という方向には持って行ってほしくないわ。これ以上説明を増やしても、95分で処理できる情報量を超えていると思うわ。


もうね、開演前にパンフレットの熱量高めの作者あいさつと、あらすじは目を通して


紅子:あらすじって、知らない固有名詞だらけで、3行目くらいでつらそーな顔になって読むのをあきらめるお客さん、たくさんいるよ・・・


管理人:せめて公演主題歌の歌詞だけは読んでおいてください。主題は主題歌に凝縮されています。