『川霧の橋』半次の想い人、お組の転落人生の理由は?
『川霧の橋』は、江戸を襲った大火により、登場人物たちの人生の歯車が狂っていく話です。
清吉(暁)も、たいがいろくでなしである。
杉田屋の棟梁に選ばれなかったのを不満に思い、お光の気持ちを盗んで上方に出奔し、江戸に帰ってお光と結婚するも、仕事しない、喧嘩して収監、脱走して人殺し。
が、これはある程度自己責任で悪の道に手を染めている。
いちばん転落してしまったのは、大きな油屋のお嬢様で、半次の想い人であるお組ちゃん(天紫)ではなかろうか。
火災で実家は焼け、両親も亡くし、大変であったと思う。
だが、火災後数か月で「夜鷹」(路上で客を取る最下層の娼婦)に堕ちるとは、展開が急すぎないか?
山本周五郎の原作では、転落の経緯ははっきりと描かれていないのですが、お組に何があったのか。
仮説1:実は実家に莫大な借金があった
劇中では、お組は大店の娘で、毎日お琴や三味線のお稽古に通うようなお嬢様。
だが、家業は実は借金経営で、大火事で家財産と親を失い、莫大な借金を相続してしまい、借金のカタに遊女となった?。
が、ギモンなのは、お組は読み書きができて芸事の素養があり、おそらく器量良し。
借金のカタとして売られるなら、売り手としてはより高く売りたいでしょうから、路上で客を取る最下層の娼婦ではなく、芸者として置屋に、あるいは遊郭に女郎として、もっと高い値段で売られるのではなかろうか(現代からみればひどい話ですが)
仮説2:清吉みたいなDV男に惚れ、恋愛感情を利用して博打のカタを払わされた
お嬢様が大火でいきなり寒空の下に放り出され、炊き出しの行列に並ぶ時はお椀持参、ということもわからず、オロオロしていたところ、お椀を貸してくれた男に惚れる。
だが、男は実はDV野郎。
だのにお組はウブ。恋愛感情を利用され、男の博打の謝金を、自分が体を売って返そうと夜鷹になってしまった?
あたし自分にも悪いところがあるんだろうと思って、ずいぶん辛抱しました。きっと私にも悪いところがあったんでしょう。男というものは、だれでも一度は道楽をするっていうから、あたし泣き泣き辛抱していたんです。
何故、そんな男から逃げなかったの?
あの人は悪党だったわ。けど、何をするにも本気だった。あたしを喜ばせることなんかごくたまにしかなかったけれど、そのときは見えも外見も忘れて、ありったけの手を尽くしてよろこばせてくれたわ。
1958(昭和33)年発表 山本周五郎「ひとでなし」より。
60年以上前の原作ですが、内容が現代のDV問題の本質をついている気がする。
DV男って、基本優しいのよね。
それゆえ被害女性も「殴られるのは自分が悪いからだ」と自分を責めているところがあって、逃げられなくなっていることがある。
まとめ:困ったら、ひとりで悩まず、まず相談。