宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

永久輝せあ プレお披露目『激情』の正直な感想




花組 全国ツアー 刈谷市総合文化センター アイリス公演『激情』『GRAND MIRAGE!』のライブ配信を視聴しました。




メリメ原作「カルメン」をモチーフに描かれた『激情』。スペインを舞台に、軍の下士官ドン・ホセが、自由奔放に生きるカルメンに魅了され、彼女への愛ゆえに堕ちて行く様を描いた本作は、1999年宙組での初演が絶賛を博し、第54回文化庁芸術祭演劇部門優秀賞を受賞致しました。


もしもシシィがスペインのジプシーに生まれていたら


『カルメン』といえば、メリメ原作の小説「カルメン」を基にしたしたオペラ版が有名ですが、宝塚版の『激情』の脚本は、原作小説とオペラ版の折衷です。


原作もオペラ版も、実直な軍人ホセが魔性の女カルメンの魅力に溺れ、堕ちていくという大筋は同じですが、


原作では、作者メリメ(凪七)が、山賊になったホセにインタビューする形を取っており、カルメンには既に夫ガルシア(凪七)がいます。


オペラ版では凪七さんが演じる役の出番はありません。


ホセの地元にいる恋人ミカエラ(咲乃)や、闘牛士エスカミリオ(綺城)は、原作での出番はわずかですが、オペラ版では大幅に出番が増えています。



オペラ版は、


束縛したがりでぐじぐじねちっこい男ホセ VS 男性的で華やかな闘牛士エスカミリオ


奔放なジプシーのカルメン VS キリスト教の価値観を体現する敬虔なミカエラ


4者のキャラの対比が鮮やかになっており、フラメンコに闘牛と、異国の色彩を感じるビゼーの音楽が素晴らしい。





新国立劇場オペラ「カルメン」ダイジェスト映像






フランスの作家メリメの中編小説。1845年刊。


衛兵伍長(ごちょう)ドン・ホセは、セビーリャの煙草(たばこ)工場の女工カルメンの魅力のとりことなり、彼女の手引きで密輸業者の群れに身を投ずる。


彼女の情夫と渡り合って相手を殺すはめにまで落ちたものの、奔放なトルソ人カルメンは、まもなく闘牛士ルカスに心を移す。


アメリカで新生活を始めようと迫るホセに手ひどい拒絶を投げつけた彼女は、予期していたかのようにホセの刃(やいば)にかかって死ぬ。


オペラ版「カルメン」は、「生真面目な男ドン・ホセが、自由奔放に生きるカルメンに魅了され、彼女への愛ゆえに堕ちて行くお話」という「よくできたお話」です。


宝塚版「激情」は、物語に作家プロスペル・メリメによる語りという枠をつくり、カルメンの夫ガルシア を登場させたことで、


観客に登場人物の行動に対して「自由とは何か」を考えさせる効果を生んでいると思います。


この効果により、物語は


「歌舞伎町のキャバクラで、ストーカー化した客がホステスを刺した事件」


から


セビリア版「エリザベート」


「もしもシシィがバイエルン王国の公爵家ではなく、


”自由に生きたい ジプシーのように♪”


の願いをかなえて、スペインのジプシーの一族に生まれたら」



に変わったように思います。




自由とは、何か。


辞書によると、


消極的には「…からの自由」


他から強制・拘束・妨害などを受けないことをいい、



積極的には「…への自由」


自分が決めたルールに従って意志を決定する、自主的、主体的に自己自身の本性に従うことを言うそうです。


シシィは宮廷のルールから、姑から、夫から、息子からも逃れた放浪の果てに、暗殺された。


「…からの自由」は手に入れたが、「…への自由」を手にしたのかどうか。


カルメンは「ホセからの自由」を得るために、大空を飛ぶ自由な小鳥のように逃げることもせず、むしろカード占いの予言のとおり、ホセの刃を「受け入れた」。


物語の幕切れは、新聞報道になれば「悲惨な殺人事件」なのでしょうが、カルメンの最期は、なびくことなく、死によって自分の人生の「…への自由」を完遂したようなカタルシスがある。


シシィがカルメンで、ホセはフランツでもあり、トート閣下でもある。


まとめ:『激情』は『裏エリザベート』として見ると、『真エリザベート』より主演コンビに似合っていた。