『RRR × TAKA"R"AZUKA ~√Bheem~』感想
星組公演『RRR × TAKA"R"AZUKA ~√Bheem~(アールアールアール バイ タカラヅカ ~ルートビーム~)』を配信で視聴しました。
原作映画「RRR」はインドでは2022年公開、日本でも2023年に公開されて、SNSに”「ナートゥ」ダンスを踊ってみた”動画が次々に投稿されるなど、大いに話題になりました。
お話の舞台は、1920年代、イギリス統治下のインド。
さらわれた女の子を助けたい一心で総督邸に忍び込むビーム(礼)が主人公、ということになっていますが、
物語を進める原動力は、イギリスの警察官として働きつつ、いつかイギリスの武器を奪い、蜂起を目指すラーマ(暁)にありましたね。
ポスターの
”友情か?使命か?愛か?”
のうち、
”友情か?使命か?”
がストーリーの軸としてぶれずに描かれていて、見やすい物語でした。
”愛か?”は、宝塚的な男女の愛より
”故郷への愛” ”愛国心”
が前面に出ていたかなあ。
最近、「原作マンガを映像化する際に、原作者の意図から外れた改変が行われることがある」問題について、議論が活発になっています。
3時間越えのCGアクションを駆使した大作映画「RRR」を、日本の宝塚で上演するために半分の90分に刈り込んで、
かつ、インド側のスタッフが作品に込めた「核となる想い」を尊重しなければならない。
谷貴矢先生は、原作の10分ごとに観客の予想外の展開が続く怒涛のストーリーを半分に刈り込んだうえで、できる限り事件の伏線を貼り直し、心理の綾を補った脚色で、
「あらすじ要約」にならずに「ビームとラーマの想いの変化」を感じるストーリーになっていたと思います。
「RRR」といえば、
「サルサでもない、フラメンコでもない、“ナートゥ”をご存じか?」
Naatu Naatu Full Video Song (Telugu) [4K] | RRR | NTR,Ram Charan | MM Keeravaani | SS Rajamouli
のシーンが有名です。
実は原作映画でのダンスシーンは、上記のシーンとエンディングの2か所しかないのですが、
エンディングは洗練された「ナートゥダンス」とはうって変わって、本場の手加減無しのインドカレーのような、むせかえるヒンドゥー・ナショナリズムの臭いに溢れており、初めて見る方はちょっとびっくりするかもしれません。
そもそも、ビームとラーマは、コマラム・ビームとアッルーリ・シータラーマ・ラージュという、イギリスのインド支配に武力で立ち向かった実在の人物で、現地では「英雄」と尊敬されているそうです。
Etthara Jenda Full Video Song(Telugu) | RRR | NTR,Ram Charan,Alia,Ajay Devgn|Keeravaani|SS Rajamouli
振られている旗は現代のインド国旗ではなく、独立戦争の時代に使われた「民族旗」「ヴァンデー・マータラム・フラッグ」
映像の背景に登場する肖像は、スバース・チャンドラ・ボース(インド国民会議派の有力リーダー)をはじめ、イギリス統治下でインド解放のため活動したリーダーたち。
ただし、「非暴力・非服従」で有名なガンジーは外されています。
現代に近い時代に、体制に対して暴力で対抗した人物をどう扱うか。
彼らは「英雄」「偉人」か、「テロリスト」なのか、といった議論は国により、時代により、立場によりとてもセンシティブで、
日本で商業ベースで原作映画「RRR」のヒンドゥー・ナショナリズムの色合いをそのまま舞台に載せることは、難しい問題をはらんでいると思います。
谷貴矢先生の演出は、原作映画の随所にある
「鬼畜英国!インドを支配し迫害したイギリスなんて、大っ嫌いだ!」
「暴力には暴力を!これぞ非服従!」
「英国VSインド魂!」
というヒンドゥー・ナショナリズム的な価値観をなるだけ薄め、
「極悪非道な総督夫妻が悪い」
「ワルツもいいけど、インドのナートゥダンスもいいよね!」
という軸を打ち出そうという配慮を感じられました。