ホームズ感想 「切り裂きジャック」展開が唐突すぎて?
※ネタバレなしです。
予算をかけたパスティーシュ
パンフレットによると、本作品はホームズもの作品の「パスティーシュ」だそうです。
他の作家の作品から借用されたイメージやモティーフ等を使って造り上げられた作品。
素材となる作品中の特定の要素に共感し,これに一貫して光を当てるような操作が行われる場合と,素材にはらまれていた矛盾や緊張を強調して作品を再創造する場合とがある。
F.ジェームソンは政治批判性のある〈パロディ〉に対して,無批判的な〈パスティーシュ〉をポスト・モダン文化に特有な芸術表現として提唱した。
パロディもパスティーシュも似たようなものですが、
パロディのほうが幾分批評性、からかい、「毒」っけを含んだ意味合いがあり、
そういった「毒」要素薄めのものが「パスティーシュ」。
生田先生がこのパスティーシュを思いついたきっかけは、以前ネットの質問箱で、
「ホームズは切り裂きジャック事件と関係があったのですか?」
という、
ホームズを架空の人物とわかったうえで、ネタで投稿しているのか?
それとも、本気でホームズが実在していたと思っているのか?
ちょっと本意を図りかねる質問を見たことがきっかけだったそうです。
作者コナンドイルが、シャーロックホームズの第1作「緋色の研究」を世に出したのは1887年。
そして翌1888年、「切り裂きジャック事件」がイギリス中を震撼させます。
作品の冒頭のキモ「切り裂きジャック」とは?
1888年8月から 11月にかけて,イギリスの首都ロンドンの東部,イーストエンドのホワイトチャペル地区付近で,少なくとも 5人の売春婦が殺害された連続殺人事件および犯人の通称。イギリス犯罪史上最も有名な未解決事件の一つ。
1888年から 1892年にかけての数十件の殺人事件を切り裂きジャックの犯行とする説もあるが,5件とするのが一般的である。
被害者のうち 1人以外は全員路上で客を誘っている際に殺害された。被害者はいずれも喉をかき切られ,遺体はある程度の解剖学の知識をもつとみられる者によって切り裂かれていた。
この事件は、短期間の間に娼婦が次々と残酷な手口で殺害され、当時識字率の向上により読者を増やしていた新聞記事でセンセーショナルに取り上げられることでさらに関心をあおり、報道機関に犯行予告が届き、とどんどんエスカレートするも、
この事件、5人目の被害者を出したのち、犯行がピタッと収まり、結局、いまだに未解決のまま。
21世紀になっても、定期的にマスコミで「ついに切り裂きジャックの正体が判明!」ネタが出るという、今に至るまで猟奇事件の代名詞のようになっております。
(当時名を上げていた医師で作家のコナンドイルのところにも、警察が意見を求めて来たそうです)
事件はうやむやに収まりましたが、ロンドンっ子の本音は
警察は何をやってるんだ!
こんな時、名探偵がいればなあ
ホームズならどうする?
そんな空気が世の中を覆う中、1891年に「ストランド誌」でホームズもの読み切り短編第1弾「ボヘミアの醜聞」が連載開始。
同年1月に起こった「マイヤーリンク事件」をも想起させる設定、そして「ホームズの裏をかく「あの女」アイリーン・アドラー」のキャラクターに人々は熱狂します。
その後、作者の存命中から、ホームズとワトスンのキャラは「作者コナンドイルが創造した架空のキャラ」の枠を超え、実在の人物のように親しまれ、語られ、
ファンレターは「コナンドイル様」宛ではなく、「ベーカー街221B シャーロックホームズ様」宛にガチの事件捜査の依頼が来るようになりました。
(この状況に嫌気がさしたコナンドイルによって、ホームズはラストあんなことになるわけですが)