宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」感想 宝塚再演は雪で朝美アニータ?


ひとつになれない世界に、愛し合う場所はあるのか?


映画『ウエスト・サイド・ストーリー』本予告60秒 2022年2月11日(祝


《STORY》 夢や成功を求め、多くの移民たちが暮らすニューヨークのウエスト・サイド。


 だが、貧困や差別に不満を募らせた若者たちは同胞の仲間と結束し、各チームの対立は激化していった。


 ある日、プエルトリコ系移民で構成された“シャークス”のリーダーを兄に持つマリアは、対立するヨーロッパ系移民“ジェッツ”の元リーダーのトニーと出会い、一瞬で惹かれあう。


この禁断の愛が、多くの人々の運命を変えていくことも知らずに…。

「ウエストサイドストーリー」の舞台初演は1957年。


原作「ロミオとジュリエット」の、イタリア・ヴェローナのモンタギューキャピュレットの対立を、


当時のニューヨークの現状に置き換え、ヨーロッパ系移民不良グループ“ジェッツ”プエルトリコ系移民で構成された不良グループ“シャークス”の対立の悲劇として描いた作品の、1961年以来の映画化。


主なキャスト


トニー(原作ではロミオ)アンセル・エルゴート:(ポーランド系移民。過去に抗争で相手を半殺しにして刑務所へ。今は抗争から距離を置き、ドラッグストアで真面目に働いている。)


マリア(同ジュリエット)レイチェル・ゼグラー:プエルトリコからの移民。“シャークス”のリーダーベルナルドの妹。


ベルナルド(同ティボルト)ディヴィッド・アルバレス“:シャークス”のリーダー、マリアの兄。ボクサーとして成功しつつある。


アニータ(原作では乳母的な存在?)アリアナ・デボーズ:ベルナルドの恋人。服飾の店を持つのが夢。


リフ(原作ではマーキューシオ)ヨーロッパ系移民不良グループ“ジェッツ”をトニーと創設した。


バレンティーナ(原作ではロレンス神父的存在?)リタ・モレノ:ヨーロッパ系移民“ジェッツ”のたまり場となっているドラッグストアの経営者。ムショから出てきたトニーを雇っている。プエルトリコ系だが、白人と結婚した。



前回の映画化と基本的に使用楽曲などは同じですが、変更点は、


・居場所が無い者たち


1961年版では、バーンスタインのソング&ジェームス・ロビンスのダンスの魅力を前面に出していて、「この不良たちはそもそもなんで喧嘩しているのか?」というところがほとんど語られていないのです。


2022年版では、”ジェッツ”と”シャーク”が抗争している、貧しいイタリア系やユダヤ系移民やプエルトリコ系移民が住むスラムは、複合文化施設建設のため取り壊しが進んでいて、


不良たちが「俺たちのシマが荒らされた!」と言って喧嘩しているが、そもそも彼らの住むコミュニティ両方が解体の危機にある、ということが明確に示されています。


そんな中、プエルトリコ系のリーダーのベルナルドは、アメリカでボクサーとして成功しつつあるが、何かと言えばプエルトリコを懐かしむそぶりを見せていて、


全体に男たちはヨーロッパ系移民“ジェッツ”というより「アメリカ社会」を憎んでいる。


女たちのほうがしなやかで、マリアは大学進学を望んでいたり、アニータは服飾の仕事をして英語も流暢で、「ここはアメリカ。私は”アメリカ人”として生きて行く」と覚悟を決めて順応しようとしている。



・ここかしこに聞こえるスペイン語


1961年版では、プエルトリコ系の移民たちも流暢な英語を話していたのですが、2022年版ではプエルトリコ系の会話は英語とスペイン語が入り混じっている。


警察官がプエルトリコ系の不良たちを尋問するときに、スペイン語で話されると「ここはアメリカだ。英語で話せ!」


マリアやベルナルドがスペイン語で話していると、アニータが「ここはアメリカ。英語のレッスンよ。英語で話して」と何度も言う。


日本版の字幕では、スペイン語の字幕は〈  〉で強調されていますが、アメリカ公開時は、スペイン語部分は字幕なしで公開されているそうで、


アメリカ公開版では聴覚的にも、「相手の言っていることがわからない」というコミュニケーションの断裂が明確に示されています。


そんな中、マリアに恋したトニーは、「マリアの母国語で愛の言葉を伝えたい」と、プエルトリコ系の店長バレンティーナからスペイン語のレッスンを受けるシーンがあったのが印象的でした。



・父親たちとロレンス神父の不在


「ロミオとジュリエット」と2022年版「ウエスサイドストーリー」の一番の違いは、「親」と「ロレンス神父」の不在。


ロミオとジュリエットの原作では、ロミオは名家の跡取りで、姿が見えないと母親が探し回っているので、親から愛されて育っているのでしょう。


「ウエスサイドストーリー」劇中、警察署に連行されたワルたちが自身の家庭環境について歌う「クラプキ巡査殿」というナンバーがあって、


”父さんはアル中、母さんはヤク中、じいちゃんはアル中、ばあちゃんはマリファナの売人です!俺たち望まれて産まれてません!”


”俺たちがワルなのは、環境が悪いんです!社会的な病気(social disease)です!”


非行はあかんが、家庭に、社会に居場所が無いって、聞いていてつらい。



そして「ロレンス神父」に近いのが、トニーの雇い主、バレンティーナ(演じるのは1961年版でアニータを演じたリタ・モレノ 御年90歳!)


プエルトリコ系ですが白人と結婚し、店はヨーロッパ系移民“ジェッツ”のたまり場となっていて、トニーやワルたちをなにかと気にかけている。


1961年版では白人男性が演じていたトムという役を、あえてトムの未亡人という役どころに変更し、『Somewhere』


There's a place for us,Somewhere a place for us.


(わたしたちの場所がある。どこかに私たちの居場所がある)


映画『ウエスト・サイド・ストーリー』特報60秒 2022年2月11日(祝・金)公開



という歌詞を歌わせることで、2022年版のメインテーマ「居場所」を明確にしていたと思います。


でも、男性でも成り立つ役を女性にしたことで、劇全体にアニータやバレンティーナの「母性」は濃厚に感じるのですが、


「父性」は希薄なものとなってしまった。



スピルバーグが「FOR DAD」


しかしなぜスピルバーグ監督が、75歳という年齢になって、あえてミュージカルの古典名作『ウエスト・サイド・ストーリー』のリメイクを?


じつは管理人の涙腺が崩壊したのは、映画本編ではなく、


エンドロールのクレジットに


「FOR DAD」


の文字を見た時でした。


スティーヴン・スピルバーグ監督が『ウエスト・サイド・ストーリー』リメイクで献辞を捧げたのは、父親だった!




スピルバーグの映画は、「E・T」のシングルマザー家庭設定とか、「キャッチミーイフユーキャン」の、詐欺師の主人公を追い詰めつつも更生を願うFBI捜査官(でも自身の家庭はほったらかし)とか、


スピルバーグの映画には、基本楽しい娯楽映画に、無くても映画は成立する「家庭が壊れている」設定を入れてくるなあ、と思っていたのです。


スピルバーグが映画撮影に興味を持ったのは13歳の頃、家族旅行の際に父親から8ミリカメラを渡され、撮影係を頼まれたことだったそうです。


だのに、両親は離婚。父親は家を出て行った。


父さんに「家族を撮ってくれ」と言われたのに、家族が壊れちゃった。



スピルバーグ監督は、少年時代に撮影するはずだった「父のいる家庭」を探し続けているのかなあ?父親との関係はどうなったのかな?とずっと気になっていたんです。


父親との関係は修復されていたのですね。




「私の父は『ウエスト・サイド物語』が大好きで、何度も観ていました。


彼が103歳で亡くなった時、映画は未完成だったものの、撮影現場に時々顔を出してくれたようなものでした。


彼がロサンゼルスに居て、私たちがニューヨークで撮影をしている時は、iPadでFaceTimeを使って撮影現場や演技を見てもらったりできたのです」

スピルバーグほどの大監督が、


「お父さんに撮影現場を観てもらいたい。できた映画を観てもらいたい」


「お父さんに褒めて欲しい」


って思っていたんだなあ。



宝塚でやるなら?


朝月さん退団後の雪かなあ(朝月さんごめん!)


番手的には


トニー(彩風)


マリア(夢白)


アニータ(朝美)


リフ(和希)


ベルナルド(縣)


バレンティーナ(英真)


別箱でやらないかなあ。