宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

鷹翔やっと覚醒!ネバセイヴィセント編『NEVER SAY GOODBYE』新人公演感想




『NEVER SAY GOODBYE』新人公演、個人的MVPは鷹翔千空さん。


最後、長の期としての挨拶で出てきた時、一瞬「あ、これ『NEVER SAY GOODBYE』~ヴィセント・ロメロ編~」だっけ?と思いました。


彼女は男性らしい容姿、体躯、芸事の確かさ、男役としての条件に恵まれ過ぎているのに、どうにも優等生の殻を破れず、「あなたはなぜ男役をやるのか?」をもっと感じたくてもどかしく思っていましたが、最後の新人公演で覚醒したね!


ファシズムがどうの、ソ連がどうの、スペインという国家全体がどうのよりも、故郷バルセロナへの愛がまず第一の行動原理な熱量が、画面越しにも伝わりました。



フランシスコ・アギラールの亜音 有星さんも、「社会主義的に正しい解釈のサン・ジョルディの祭り」で調子に乗って舞台にあがっている間に、キャサリンを奪還されるおまぬけなシーンが省略されたことで、


キャサリンへの執着も、正論ばかり言っている生意気な写真家のパートナーの女に横恋慕というよりは、


政治宣伝に使えるキャサリンを逃してなるものか、といった冷徹な戦略ゆえだったのね、と思いました。



風色 日向くん。うーん。今回は挑戦だったね。


新人公演なので上演時間が短縮され、アメリカから来た主演2人の愛の世界と、スペイン内戦の世界がほとんど分離してしまったつなぎになったのは、やりにくかったのかな。


次への期待を込めて、ちょっと辛口感想。


真風氏のジョルジュは宿命的な影があって、おそらくワルシャワのゲットー育ちのユダヤ人で、それゆえナチスドイツが許せないんだろうな、という納得があって、


「お前は写真撮ってるだけだろ」と言われたら


「写真に真実を写したい。写真でしか言えないことがある!」


と言い返しそうな、哲学的ともいえる渇望を感じました。


ラスト、カメラを置き、俺が死んだらオリーブの木の根元に埋めてくれと頼むことに客が「え、なんで。あなたの写真でしか伝えられないことがあるのに」と思う。死ぬ瞬間までカメラを抱えてそうな人なのに。



風色くんは、ワルシャワから流れてきた根無し草風でも無い。根っから明るくて影が無い。


アメリカ出身の白人のアングロサクソンのプロテスタントの青年が、アメリカの大学でジャーナリズムを専攻し、


「民主主義は大切!ファシズムはよくない!」といった理念先行でスペインに義勇兵として参加した感があり、職業が写真家でなくても別にいい感じ。


「お前は写真撮ってるだけだろ」と言われて


「そう言われたらそうだな。俺も戦うよ!」


って言ってそうな。


セリフで言っている情報は確かに伝わるんだけど、まだ言外の含みとか裏とか背景の情報量が少ない。


宝塚での新人公演が無くなって、お稽古の時間も少なくて大変だったと思うけど、セリフに書かれていない人生を埋めるのが演出家と役者の仕事だからね。役の解釈について、演出の先生と討論したっていいんだよ。