うたかたの恋のその後『二人だけの戦場』『舞姫』超クズの超超エリート
聖乃 あすか、お国の為に、女を捨てるエリートに挑む
■主演・・・聖乃 あすか
◆宝塚バウホール:2023年5月3日(水・祝)~5月14日(日)<一般前売:2023年4月8日(土)>
座席料金…全席5,500円
Musical
『舞姫』 -MAIHIME-
~森鴎外原作「舞姫」より~
脚本・演出/植田 景子
日本が近代国家へと歩み始めた明治期。国費留学生として周囲の期待を一身に背負いドイツ留学を果たした太田豊太郎が出会ったのは、清らかで美しい踊り子エリス。
彼女と過ごすうちに心のまま生きる喜びを知り、純粋な愛を育む豊太郎だったが、二人の関係は世間の中傷の的となる。
日本への郷愁と祖国への使命感を抱え、苦悩する豊太郎。
やがて、彼の才能を惜しむ者たちの想いが、二人を悲劇の淵へと追い詰めて行き…。
明治の文豪、森鴎外の初期の傑作「舞姫」をもとに、2007年に花組バウホール公演としてミュージカル化した『舞姫』-MAIHIME-。
哀愁に満ちた旋律に乗せ、愛する人と祖国への想いの間で葛藤する主人公の心の内を鮮烈に描き、高い評価を得た作品の待望の再演。
森鴎外(おうがい)の短編小説。1890年(明治23)1月、『国民之友』に発表。処女作。92年7月、春陽堂刊の『美奈和(みなわ)集』に収録。
ベルリンに留学した、日本の若きエリート官僚太田豊太郎(とよたろう)は、そこで、自由と自我に目覚め、薄幸の踊り子エリスと恋仲になるが、そのために免官となる。
やがて、親友相沢の計らいで、来独の日本高官に従って帰国できることとなるが、そのためにはエリスを捨てねばならず、事情を知った妊娠中のエリスは精神に異常をきたしてしまう。
鴎外創始の流麗な雅文体で書かれた、浪漫(ろうまん)的香気の高い作品で、日本近代の黎明(れいめい)期における自我の苦悩をつづった問題作である。
1888年、鴎外の帰国を追って来日した、エリーゼというドイツ女性があり、自伝的要素の強い作品である。
主な登場人物
太田豊太郎:武家の長男として生まれ、幼い頃から厳しく育てられてきた。周りの期待を一身に浴びエリート官僚としてベルリンに留学することとなる。
少女エリス:ヴィクトリア座の踊り子で、父を亡くし金銭的に困っていた。
相沢謙吉:豊太郎のために奔走する旧友。
原芳次郎:日本という狭い世界にとらわれず、ベルリンで己の芸術を追う画家。
天方伯爵:大臣。豊太郎の才能を高く買っており、彼を日本に帰そうとする。
「舞姫」・・・高校の教科書に載っていましたね。
石炭をば早や積み果てつ。
中等室の卓のほとりはいと靜にて、熾熱燈の光の晴れがましきも徒なり。
今宵は夜毎にこゝに集ひ來る骨牌仲間も「ホテル」に宿りて、舟に殘れるは余一人のみなれば。
もはや古文の域・・・
近代日本文学の礎を築いた大文豪にして、陸軍の軍医総監にまで出世した超エリート、森鴎外の自伝的小説。
教科書にも載っているお話なのでネタバレしますが、「功名のために女を捨てる話」です。ひでえ。
今でこそ国際結婚は珍しくありませんが、戦前に日本のエリートが外国人と結婚しようとすると、
「ハニートラップに引っかかりおって。相手は外国のスパイだろう?」
という疑いをかけられる時代でもありました。
戦前どころか昭和の頃でも「仕事の為に、家庭を犠牲にするのはあたりまえ」という価値観が支配していましたからねえ・・・ワークライフバランスという概念は、この数十年の話。
主人公である豊太郎なんて、
「お国のために」と「恋愛」
を天秤にかけて、功名に走ったわけでもない。
ずるずるとお国のほうに引き戻されて、被害者ぶっている野郎だ。
嗚呼、相澤謙吉が如き良友は世にまた得がたかるべし。
されど我腦裡に一點の彼を憎むこゝろ今日までも殘れりけり。
エリートの道に引き戻してくれた相沢に
”相沢に感謝しているけれど、今でもぶっちゃけ恨んでる”
人のせいにするな!
明治時代からずーっと
「太田豊太郎は意志弱すぎ!出世より恋愛をとるべきだろ!」
と言われている問題作でもあります。森鷗外もムキになって反論していましたからね。本人も後ろめたいところがあったんだろうなあ・・・
聖乃 あすか、文豪の問題作で観客を泣かせてくれ!
柚香、「うたかたの恋」後日譚に挑む
■主演・・・柚香 光、星風 まどか
ミュージカル・ロマン
『二人だけの戦場』
作・演出/正塚 晴彦
1994年に一路真輝と花總まり主演により宝塚バウホールで上演された『二人だけの戦場』。
数々の自治州により成り立つ架空の連邦国家を舞台に、理想に燃える青年士官が、国家と個人の狭間で苦悶する姿を、民族が異なるが故に許されない恋、そして彼を支える熱き友情と共に描き出す、ヒューマニズム溢れる物語。
激動の時代の中で育まれる、揺るぎない絆を描く傑作の再演に、柚香光と星風まどかを中心とした花組が挑みます。
理想に燃え、国家と人間との狭間で果敢に立ち向かう青年士官の、民族が異なる娘との許されざる恋と、熱い友情の物語。
'94年雪組・宝塚バウホール。作・演出は正塚晴彦。一路真輝、花總まり 他。
ヨーロッパの片隅の連邦国家。その国で最大勢力をなす民族の名門の家系に生まれたシンクレア(一路)は、士官学校を1番で卒業する。
卒業式の夜、シンクレアは兵隊に絡まれている娘ライラ(花總)を助け、彼女の兄のアルヴァ(和央ようか)と出会う。
彼らはこの国でもっとも少数の流浪の民だった。アルヴァは民族が異なるシンクレアを追い返し、翌日彼らは旅立つが、シンクレアはライラの美しさを忘れられなかった。
やがてシンクレアは親友のクリフォード(轟悠)と共に辺境の小さな州に赴任。
ハウザー司令官(古代みず希)付きとなったシンクレアは、土地の有力者シュトロゼック(汝鳥伶)家に招かれ、その家の娘だったライラと再会し、恋が芽生えるが…。
このお話のモデルとなっている架空の連邦国家のモデルは、おそらく旧ユーゴスラヴィア。
ギリシャの左上のほうにあり、国内に2つの文字、3つの宗教、5つの言語をかかえる多民族国家でした。
こんなややこしそうな国は、かつては王政、第2次大戦後はチトーというカリスマの下、危うい均衡を保っていたのですが、
『二人だけの戦場』が上演された1994年ごろには、セルビア人・クロアチア人・スロベニア人が悲惨な紛争を繰り広げていました。
1463年以後ボスニアはオスマン帝国の支配下に入り,ヘルツェゴビナも 1482年に同じくオスマン帝国の属州となった。
17世紀末以降はオーストリアがしだいに進出,オスマン帝国との長い争いののち 1908年にボスニア・ヘルツェゴビナをオーストリア=ハンガリー帝国に併合。
これが遠因となって 1914年にサラエボでセルビア人学生によるオーストリア皇太子夫妻暗殺事件(サラエボ事件 )が生じ,第1次世界大戦に発展した。
略
1992年3月ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国として独立を宣言,5月には国際連合に加盟した。
しかし,主要3民族の確執が三つ巴の戦闘に発展 (→ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争 ) 。
国連などが調停に乗り出したが,効果的な対応ができず,内戦は長期化した。
1995年 12月ボスニア和平協定 (→デートン和平合意 ) が成立。
サラエボで暗殺されたオーストリア皇太子とは「うたかたの恋」で出番が増えるらしい、フランツ・フェルディナンド。
セルビアは中世セルビア王国の記憶からバルカンのスラブ民族の盟主だと自認していたのに、
オーストリアが仲間のボスニア・ヘルツェゴヴィナを併合したので、ハプスブルク家に憎悪を向ける人が多かったそうです。
「ヨーロッパ地域における悲惨な戦争」は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争が最後であってほしかったのですが、今も・・・
ウクライナで戦争が続く時代に、宝塚歌劇団があえて『二人だけの戦争』を再演する意味とは、何か。