宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

香川照之の歌舞伎を見た正直感想






【舞台映像】歌舞伎座『菊宴月白浪』ダイジェスト映像


正直感想:香川照之のイケメンヒーロー設定はきつい


四代目市川猿之助氏が刑事事件により歌舞伎座への出演がかなわなくなり、例の事情でTV界から遠ざかっている香川照之氏こと歌舞伎役者・市川中車が猿之助の代役を務めた、


2023年7月歌舞伎座「七月大歌舞伎」の『菊宴月白浪』を配信で視聴しました。


芝居の筋を一言で言うと、「元禄バロックロック」的な「忠臣蔵のパロディ」です。


歌舞伎の古典『仮名手本忠臣蔵』では、セリフはたった一言


「ごじゅう~~~りょお~~~」
(ご指摘いただき表現を修正しました)



しかない端役の「斧定九郎」を主人公にして、赤穂浪士切腹の「その後」を描いたスピンオフ作品です。


浅野家と吉良家は、それぞれ子孫を立ててお家の再興を目指しているが、両家の家臣たちは互いに対立して、家宝を奪い合ったり、殺し合ったり、足の引っ張り合いばかり。


正直前半は、場が変わるたびに、いきなり切ったはったが始まり、やられたほうが死ぬ間際に


「実はお前には、子供の頃に養子に出された兄がいる」


とか言い出して、



「吉良だと思ったら、浅野の血筋だった」


「浅野と思っていたら、吉良家の血筋でした」


という衝撃の事実が次々明らかになる、驚きの展開!


・・・いや、現代の観客からすれば、忠臣蔵のマニアックなパロディとか、実は吉良とか本当は浅野だったからって、


「それがどうした」


なところがあり、いまいち入り込めず。


座頭のはずだった猿之助氏がいなくなり、役者同士の演技の方向性が微調整されないまま、段取りで演じている感があって「演出家の不在」を感じてしまいました。


主役である斧定九郎は、宝塚の男役トップスター的な、色っぽさと、悪の香りと、スタイルの良さで黙らせるタイプが向いているお役だと思います。


市川中車(香川照之)さんの、イケメン色悪設定、ねえ…


後半、


斧定九郎が「若様の傷を治すためには、女の生き血が必要だ。妻の生き血がぴったりなのだけど…」と悩んでいると、目の前に妻の死体と幽霊が現れた!どうする?血を取る!?


とか、


愛する女(壱太郎)を3人で奪い合い、女が「私のために争わないで!」


とか、


いかにも歌舞伎なシチュエーションになると、ぶっとんだ心理の高低差を緻密な心理分析で埋める、ある意味寝技に持ち込む演技術で魅せてくれました。


香川さんは、若手の歌舞伎の指導まではまだできないのかもしれませんが、同じ場面でセリフを交わす相手については、演技力で自分のペースに引きこむチカラがあって、芝居としては観ていて面白かったです。


視覚的には、市川中車の宙乗りならぬ大凧乗りは、まあ「香川さん、がんばってますね」でしたが、


隅田川の花火大会をプロジェクションマッピングで投影している場面に、妻の幽霊が宙乗りで出てきたり、


浅草寺の屋根の上での敵との大立ち回りでは、最後は瓦(座布団?)の投げ合いになって、


「なんか知らんが楽しかった!」


と宝塚のショーを見たような気分で見終わりました。


ただなあ…澤瀉屋カンパニーの歌舞伎面での演出家不在問題は、由々しきことだと思います。船頭無き船はどこへ向かうのか。