ミュージカル『ベートーヴェン』感想
『エリザベート』、『モーツァルト!』、など、日本ミュージカル界でも屈指の人気作品群を手掛けてきたミヒャエル・クンツェ(脚本/歌詞)とシルヴェスター・リーヴァイ(音楽/編曲)のゴールデンコンビによる、ミュージカル『ベートーヴェン』を配信で視聴いたしました。
『モーツァルト!』では、モーツァルトが作曲した曲を使わずに、自身の才能に殉じた天才の苦悩に迫る挑戦作でした。
『ベートーヴェン』は、偉大な作曲家が聴覚を失う直前に出会った「不滅の恋人」とのエピソードをメインにした物語です。
作品中には、彼がオーケストラやピアノ演奏用に作曲した楽曲をボーカルで歌えるように編曲したものがふんだんに使われています。
※1月1日(月・祝)23:59までアーカイブ配信あり。詳細は上記リンクからご確認ください。
「悲愴」
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第8番 「悲愴」 - 第2楽章[ナクソス・クラシック・キュレーション #切ない]
「月光」
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第14番「月光」:第3楽章[ナクソス・クラシック・キュレーション #カッコイイ]
「英雄」、
ベートーヴェン: 交響曲第3番「英雄」:第4楽章[ナクソス・クラシック・キュレーション #元気]
「運命」
ベートーヴェン: 交響曲第5番「運命」:第1楽章[ナクソス・クラシック・キュレーション #ゴージャス]
「田園」
ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」 第1楽章[ナクソス・クラシック・キュレーション #元気]
「皇帝」
ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第5番「皇帝」:第1楽章[ナクソス・クラシック・キュレーション #カッコ良い]
「エリーゼのために」
ベートーヴェン/エリーゼのために pf.Vincenzo Balzani
「第九」
ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」:第4楽章[ナクソス・クラシック・キュレーション #ゴージャス]/Beethoven:Symphony No. 9, Op. 125, "Choral" IV.
井上芳雄、花總まりと「濃いラブストーリー」 ミュージカル「ベートーヴェン」で共演、「終わるまでには“花ちゃん”と呼べるんじゃないかな」(会見/ミヒャエル・クンツェ シルヴェスター・リーヴァイ)
感想:わかりやすさは大事
いやーっ、普段インストゥルメンタルで聞いている「公共の音楽」を、物語の中で、登場人物たちの「私だけの秘密の思いを打ち明けるソング」として歌詞をつけて歌うのを聞くと、
「この曲は2023年に作曲された」と言われても納得しそうな新しさがあり、250年を経て色あせない楽曲の強さに感服いたしました。
ベートーヴェンの苦悩多き生涯については、今でも学校の音楽の時間に習いますし、この間息子が使っている国語の問題集を見ると、彼が幼少期の父親からの虐待を乗り越えて、作曲家として成功するまでのエピソードが素材として使われていました。
彼の人生を舞台化しようとすると、みなさまご存じ
【父からの虐待】、【弟、そして甥との確執】、【貴族からの独立】、【聴覚喪失の苦悩】といった要素は外せませんし、
フランス革命後の混沌のヨーロッパを舞台に、ナポレオンへの憧れと失望、ゲーテとの友情と確執、といった超大物との人間模様があって、
響け、シンフォニア!
となりがちですよね。宝塚で2021年に上田久美子氏作・演出で上演された『fff』も「難解だ」と言われておりましたね。
【公式】<サンプルムービー>f f f -フォルティッシッシモ-('21年雪組・東京・千秋楽)
雪組公演『f f f -フォルティッシッシモ-』『シルクロード~盗賊と宝石~』初日舞台映像(ロング)
オペラには「オペラセリア」(厳粛な歌劇)や「オペラブッファ」(喜歌劇)などいくつか種類があるそうですが、
ミュージカル版『ベートーヴェン』は、
「ソープオペラ」
ですね。
【父からの虐待】【弟、そして甥との確執】【貴族からの独立】【聴覚喪失の苦悩】の要素もありますが、
物語の8割くらいを、ベートーヴェン(井上芳雄)と、美しい既婚女性アントニー・ブレンターノ(花總まり)との
【叶わぬ恋】
に全振りしています。
舞台では、恋が終わってすぐに、彼の死のシーンになるのです。
個人的には、ソープ・オペラは第1幕で区切りをつけて、第2幕は別のテーマに焦点を当ててもよかったような気もするのですが、
日生劇場にミュージカルを見に来る客は、ベルリンフィルのコンサートに行って
響け、シンフォニア!
を求める客とはまた指向が違うでしょうからね。
井上芳雄氏の、東京藝術大学音楽学部声楽科卒のクラシック発声を存分に生かした朗々とした歌唱はお見事!
花總まりさんは、クラシック楽曲を歌うには声量など課題はあるのでしょうが、「役者として心情を歌う」凄みは図抜けていたと思います。
彼女は数々の「ヒロイン」「女帝」的な傑出した個性の役を演じてきましたが、アントニー・ブレンターノ役は序盤、愛のない結婚をして、高圧的な夫に怯える「平凡な女性」がはまっていて、「花総まりも、さすがに華が…」と思ってしまったのですが、
ベートーヴェンとの恋に浮き立ち、「月光」に祈るメルヘンな場面になると、どんどん若返り、表情に生気が満ちる「舞台のマジック」が画面越しにも伝わるのがすごかったです。