宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

「男役」は絶滅危惧種?玉三郎が語る女方論に思う



大阪松竹座で2024年1月3日(水)~14日(日)まで開催された「坂東玉三郎 初春お年玉公演」を鑑賞しました。



人間国宝による、女方の魅力解説、舞踊、琴の演奏、芝居の名場面再現と、映像も駆使して


「美味しいごちそうがちょっとずつ、ぎゅっと詰め込まれた豪華おせち料理」


のような舞台でした。



プログラム


・オープニング:映像による獅子舞


・口上~女方の魅力~


歌舞伎界に入ったきっかけや、養父守田勘彌 (14代目)、往年の大女優水谷八重子 (初代)らの思い出を語る。女方の踊りや所作について、手ぬぐいや扇を使っての実演解説も。



・舞踊:黒髪(くろかみ)


愛した男が恋敵と結婚し初枕を交わす夜、ひとり髪を梳きながら嫉妬と苦悩に苛まれる女の心情を踊る。



ー休憩ー



・舞台「天守物語」より


芝居の冒頭の場面を、記録映像と玉三郎の実演の融合で再現。


玉三郎は、最初は長年演じてきたヒロイン「冨姫」として出演。


いったん引っ込んで映像で繋いだ後、妹分の「亀姫」に扮し、スクリーンに映った「冨姫」とリアル「亀姫」が会話するという趣向。


※0:25~七之助「冨姫」玉三郎「亀姫」

【舞台映像】歌舞伎座「十二月大歌舞伎」第三部 初日ダイジェスト映像


・玉三郎扮する亀姫様が、お琴の演奏を披露。


・亀姫様による、松竹座の歴史や舞台裏の解説映像。


・舞踊:由縁の月(ゆかりのつき)


※実際の舞台では、化粧、扮装つき

Tamasaburō's Summer, Jiuta Dances & Ghost Stories




最近、玉三郎は、歌舞伎の本興行の大きなお役は引退し、トーク&踊りの会など新しい試みに軸足を移すことを発表されました。


昨年12月の歌舞伎座では、当たり役の「天守物語」のヒロイン冨姫役を中村七之助さんに譲り、妹分の亀姫役を演じて、SNSの評判も良く、ぜひ見てみたかったのですが、お江戸は遠い。


まさか大阪で、噂の亀姫と、伝説の冨姫を両方見ることができるとは!


これまで玉三郎版「天守物語」を、生では一度、映像ではいくつかのバージョンを拝見しましたが、


玉三郎の「妖」に匹敵する「怪」を持つ女方は、ちょっといませんでした。「妖」対「美女」。


舞台の上で、映像の力を借りたとはいえ、玉三郎・冨姫の「妖」と、玉三郎・亀姫の「怪」が戯れている!


宝塚でいうと、「ポーの一族」で明日海りおがエドガーとアランの両方を、1人2役で演じるようなものですよ!


いやーっ、すごいお年玉でした。



前半のトークでは、初代水谷八重子 (1905年8月1日 - 1979年10月1日)の話が印象的でした。


日本の芸能の歴史上、女性が女性の役を演じるようになった歴史は、実は宝塚歌劇団の歴史とほとんど変わりません。


女優の歴史より、男性が女性の役を演じる「女方」の歴史のほうがずっと長かった。


女優・水谷八重子の芸能生活は、女性が「女方」と共演して、


「男の女方に負けない、「女」になるのだ!」


という試行錯誤から始まったそうです。


初代八重子は玉三郎に


「私の芸は女方の模倣から始まった。貴方は女方だから、女方の芸、女優の芸、どの型が良いか、自分で選んで」


と教えたそうです。



玉三郎は、


「近頃は、男らしさ、女らしさ、という考え方も難しくなってまいりました。」


「女形というものが、いつまであるのかわかりませんけれども。」


「私は緞帳のこちら側では、夢の女を演じさせていただきますから、お楽しみください。」



女方の人間国宝・玉三郎ですら、「女方」という存在が、100年後も商業演劇ベースで続いていくのは厳しいと感じているのかもしれません。


「女方」を「男役」に置き換えたら、宝塚歌劇団もまったく他人ごとではありません。


最近は「女優」表記が「俳優」表記に統一され、「男らしさ」「女らしさ」という言葉も「放送注意用語」となりつつあります。


緞帳の「あちら側」にいる、「らしさ」を極限まで追求した「夢の男」「夢の女」の魔法にかかる観客側の感覚・感性も、時代の感覚・感性に合わせて変化しています。


「らしさ」がポジティブな意味合いだった時代に築かれた「型」は、「らしさ」がネガティブな意味合いを持ち始めた時代に通用するのだろうか。


チケットWEB松竹を拝見するに、歌舞伎座の客入りも大変なようですし、宝塚歌劇団も、舵取りを間違えたら、120周年はともかく130周年記念式典は厳しいかもしれない。


気楽に楽しめて、ずっしりと重いお土産ももらったお年玉公演でした。