ボイルド・ドイル~新人公演感想
『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル』
-Boiled Doyle on the Toil Trail-
の新人公演を拝見しました。
新人公演で主役のアーサー・コナン・ドイルを演じた華世京は、謎タイトル
ーBoiled Doyle on the Toil Trailー
を翻訳するような演技でしたね。
ドイルさんは、スポーツ万能、頭脳明晰で、医師免許を取って開業しても、金にならない。
金のために書き飛ばしたホームズが大ヒットしても、自分が書きたくてたまらなかった歴史小説は評価されない。
バラバラになった家族を呼び戻すこともかなわない。
天からもらった才能を、何に使うか。
ドイルは、
文才は、偉大な人物が、偉大な業績を成す、偉大な物語を書くためにあるべきだ。
ぶっとんだ探偵が、ぶっとんだ事件を、ぶっとんだ推理で解決するぶっとんだ話の、どこが偉大なのだ。
と思っていた。
脳みそが煮え煮えなドイルさんが、骨の折れる世渡りの道を歩いた先に、
自らの分身であるシャーロック・ホームズとの「対峙」
自分と最も近い他人である妻ルイーザからの「自己への肯定」
を通じて、
エンタメ交霊術師ミロ・デ・メイヤー教授のペン=自分の「エンタメ作家としての才能」
を受け入れる。
ドイルはペン1本で、犯罪だらけで流血の絶えない陰惨なロンドンを、名探偵の活躍に胸おどるエンターテインメントの舞台に変えることができる。
『ストランド・マガジン』の発売日に書店に詰めかけたロンドンっ子が感じたのと同じワクワクを、21世紀の小学校の図書室で味わわせることができる。
華世京は
「世の中に、物語は必要だ。」
という結末に至る心理の行程を誠実に演じていて、実によかったです。