宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

アナスタシアは生きている  

本来は6月5日から宙組「アナスタシア」の予定だったんだよなあ



Trailer: Watch The Royal Ballet's Anastasia (YouTube 15 May) #OurHouseToYourHouse #StayAtHome



マクミランは英国ロイヤル・バレエの芸術監督就任後、ベルリンで制作された1幕作品に先立つ、ロシア皇帝一家の華やかな生活からロシア革命により皇帝一家が虐殺されるまでの期間をアンナ・アンダーソンの記憶として描いた2幕を新たに加え、3幕の全幕バレエに仕立て、1971年に初演しました。


第1幕と第2幕はチャイコフスキーの楽曲に合わせて英国ロイヤル・バレエのクラシカルな伝統で描き、第3幕はマルティヌーの楽曲にドイツ表現主義の影響を受けた表現をし、二つの異なるスタイルを組み合わせた実験的な取り組みをしています。

アンナ・アンダーソンって?

「神々の土地」に出てきたロマノフ皇帝一家は皇太后以外、皇帝夫妻もオリガもアレクセイもアナスタシアも、1918年にみんな処刑されていました。


が、政府は「皇帝の家族は安全な場所にいる」と偽りの発表をしました。すると世界中に「我こそはアナスタシアなり」という者が出るわ出るわ、一説には20人以上の自称アナスタシアがいたそうです。


その中でも特に有名だった方が、アンナ・アンダーソン(1896~1984年)アンダーソンは1920年、記憶喪失のためドイツ・ベルリンの精神病院に入院していたところ、周囲の人間から「あなた、皇女アナスタシアに似ているわね」と言われ、本人もそう思い込むようになります。


アンナ・アンダーソンには「彼女こそアナスタシアだ」と信じて支援する者も現れ、ロマノフの遺産相続の権利を主張して裁判を起こしたり、アメリカに渡り社交界の有名人となったり、波乱万丈な人生を送り、88歳の天寿を全うします。


このバレエは「アンダーソンがアナスタシアであったら」という「もしも」の設定で、
前半は華麗なるロマノフの宮廷の舞踏会を舞台に再現し、


後半は

アナスタシアと称する女性が「偽物であったらともかく、本物であったとしたら、そして『私は私である』ということを世界中の誰も認めないとしたら……これほど悩ましい悲劇はちょっとあるまい」


山田風太郎「人間臨終図鑑」

という苦悩をテーマにした前衛的なダンスで表現しています。

アナスタシア伝説

アンダーソンの死後DNA鑑定技術が開発され、彼女がアナスタシアではなかったことが立証されました。


史実のアナスタシアは17歳で無残に処刑されてしまっていて、20世紀の人たちも皇女がほぼ生きていないであろうことはわかっていたのですが、まだ確たる証拠もない時代があった。


後世の人たちがこの痛ましい悲劇を知って、アナスタシア皇女にも普通の女の子みたいに好きな人とのロマンスがあって、子や孫に囲まれた老後があってほしかった、という思いもあって、


その思いがアナスタシア伝説となり、イングリッド・バーグマン主演の映画『追想』(1956年)やマクミランのバレエ(1971年)、アニメ映画『アナスタシア』(1997年)、アニメ映画を基にしたブロードウェイミュージカル(2017年)、宝塚の宙組版など数々の作品を生み出す源になったのでしょう。

人間は二度死ぬ。

一度目は、その肉体が生命を終えた時。

二度目は、その人のことを覚えている人が一人もいなくなった時。

その意味では、アナスタシアはまだ生きているのかもしれませんね。


おまけ マクミラン版「マイヤーリンク」(うたかたの恋)



Mayerling – Bedroom pas de deux (Sarah Lamb, Steven McRae; The Royal Ballet)


宝塚版とは雰囲気がだいぶ違いますね。妻子のいるくたびれた中年男のルドルフと、黒天使のようなマリー・ヴェッツェラとの、先の見えない背徳のパ・ド・ドゥ。


バレエ団にもそれぞれ個性があって、

ボリジョイ: 理系的 数式を展開するような、幾何学的な美

イギリスロイヤルバレエ: 文系的 文学的、演劇的、芝居っ気

芝居でのダンスと、ショーのダンスの違いみたいで面白いです

マクミラン版「ロミオとジュリエット」


新国立劇場バレエ団 3分でわかる!『ロメオとジュリエット』


宝塚版で上演するミュージカル版「ロミオとジュリエット」の場面構成は、シェイクスピアの舞台版よりこのバレエ版の流れが基になっていると思う。