歌が上手すぎるのも危険だ『ONE PIECE FILM RED』感想
麦わら海賊一味、精神世界への航海『ONE PIECE FILM RED』
1997年より「週刊少年ジャンプ」にて連載開始した『ONE PIECE』の映画版最新作『ONE PIECE FILM RED』を鑑賞しました。
『ONE PIECE』とは「海賊王に、俺はなる!」がモットーのルフィを船長とする、義賊的海賊麦わらの一味たちが、世界の様々な国を訪れて、
悪い海賊や国家機関などに苦しめられる人々を救い、お宝を探す「西遊記」的な物語です。
今作は「ハーメルンの笛吹き男」的な、魅力的な歌姫の音楽に心奪われた者たちが、異世界にさらわれて閉じ込められる、という類型の物語でした。
『ONE PIECE FILM RED』第2弾予告 Trailer2/8月6日(土)公開
時は大海賊時代。海賊たちが跋扈し、海軍の討伐も追いつかない。軍や行政も汚職が蔓延し、人々は苦しんでいた。
そんな世界で最も愛されている歌手、ウタ。素性を隠したまま発信するその歌声は“別次元”と評されていた。
そんな彼女が、初めて公の前に姿を現すライブが開催される。
しかし、それはウタの、現実世界に対する壮大な反逆であった。
ウタは「ウタウタの実」の能力者。ウタの歌を聴いた人々はメタバースみたいな仮想世界「ウタワールド」に導かれる。
ウタワールドでは現実の苦しみを忘れ、ウタが作り出す食べ物など衣食住に困らない世界が実現。
ウタが眠るとウタワールドは消えて、人々は現実に戻る。が、ウタは死ぬまで眠れない「ネズキノコ」を食べていた。
ウタが死ねば、ウタワールドは閉じられ、誘い込まれた者たちは永遠の楽園に閉じ込められる。
ウタワールドに閉じ込められたルフィたち、さあ、どうする?
という、現実世界が辛すぎて、自分の分身のアバターで仮想空間に遊ぶことで救われている現代人も多い世相を反映した物語でした。
全世界を覆す、音楽による反逆
「ミュージカル」とか「歌劇」は、演劇の言葉の力に加えて、音楽の力を利用して観客を興奮と陶酔の渦に巻き込む芸術です。
ですので、ミュージカルにおいては基本的に「音楽は素晴らしいもの、いいものだ」という価値観です。
一方、聴く者の感情や精神状態にぐいぐいと入り込んできて、逃れるのが困難な音楽の力を、人々をコントロールするために悪用した人もいます(第2次大戦中のヒトラーによるワーグナー音楽の利用など)。
ワーグナーの音楽自体に罪は無いと思いますが、音楽に力が無くては、人の心の奥深くは動かせない。
人類の音楽史に残るワーグナーという才能が生み出した「音楽の力」ゆえに、ドイツ国民は熱狂した。
本作は、「音楽の力って、怖いところもあるよね」という面が強く出ていて、
ウタの声は、美しい歌声で船人を惑わして、破滅させたというセイレーンの響きを帯び、
現代のハーメルンの笛吹き女による「全世界を覆す、音楽による反逆」のお話で、大人が見ても面白かったです。
ちなみに、『ONE PIECE FILM RED』でウタの歌唱シーンを担当しているのは、
「うっせえわ」がヒットした、仮想空間でブレイクした歌姫Adoさん。
この、椎名林檎をして「野性味あふるる雄叫びを聴かせ、それを支配する知性にも恵まれた、理想的などら猫声」と言わしめた無二の声。
ウタは世につれ、世はウタにつれ。
この声、この曲に、2022年の夏の記憶を閉じ込めることができてよかった。
新時代はこの未来だ 世界中全部 変えてしまえば 変えてしまえば…
【Ado】新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)
ジャマモノ やなもの なんて消して この世とメタモルフォーゼしようぜ
ミュージック キミが起こす マジック
目を閉じれば未来が開いて
いつまでも終わりが来ないようにって
この歌を歌うよ