宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

柴田歌舞伎と思えば…『フィレンツェに燃える』感想

植田歌舞伎ならぬ柴田歌舞伎?




ミュージカル・ロマンス


『フィレンツェに燃える』

作/柴田 侑宏

演出/大野 拓史


国家統一運動が起こり始めた1850年頃のイタリア、フィレンツェ。


侯爵家の長男で、聡明で高潔な貴公子アントニオは、酒場の歌姫から貴族の未亡人となったパメラと出会い、その想いの深い瞳に魅入られ恋に落ちる。


アントニオとは対照的に奔放な性格の侯爵家の次男レオナルドは、パメラが兄を破滅に導く悪女であると考え、二人を引き離す為に偽りの恋を仕掛けるのだが…。


1975年に雪組で上演され絶賛を博した『フィレンツェに燃える』。愛の二面性をテーマに描かれた哀感溢れるミュージカル作品の初の再演に、柚香光を中心とした花組が挑みます。




もしも原田先生が「フィレンツェに燃える」を演出したら、


国家統一運動が起こり始めた1850年頃のイタリアの政治状況を説明するために、ガリバルディとか、カヴ―ルとか、サルディーニャ国王がどうしたとか、どんどん情報を詰め込みそうですが💦


宝塚で和物演出を数多く手掛ける大野 拓史先生が演出したら、



植田歌舞伎ならぬ、


「柴田歌舞伎」になった感がありました。




歌舞伎の脚本は、近代劇のように個性を持った登場人物がいて、台本だけを読んでも登場人物の心理がすんなりわかるように論理的に構築されたストーリーで構成されているものばかりではありません。


ある程度定型化された「役」と、おきまりの「場面(シチュエーション)」のさまざまなバリエーションが、手を変え品を変え、繰り返し上演されてきました。


一つの「場」は10分以上あることも珍しくなく、役者がせりふや動作をわかりやすく出さず、感情を内面的におさえて、その人物の心理を表現する演技をじっくりと魅せます。





代表的な役柄には


「実事」(立役の代表的な役どころで、おおむね思慮分別に富みしっかりと肚のすわった立派な人物。常識をわきまえて姿も凛々しくある意味理想的な男性像)


「二枚目」(男女の色恋を演じるなど特に女性の人気を取る役柄)



「傾城」(最高位にいる遊女。君主に愛されて一国一城をも傾けるほどの美人)


「赤姫」(歌舞伎に登場するお姫様役の総称で、着ている衣裳の色が概ね赤。赤の色には美しさや高貴な身分が表現され、そして恋に燃えるなどの一途さ、時には激しい気性もこの色に込められている)


などがあり、、



「場」には



愛し合う男女の逢瀬を描く「濡れ場」(ラブシーン)、


「口説き」「口舌(くぜつ=痴話げんか)」、


女が愛する男のために心ならずも男に「愛想尽かし」「縁切り」


絶望した男が誤って女を殺す「殺し場」



などがあり、


登場人物の個性を追求するよりは、定型的な「役」と類型的な「場(シチュエーション)」にさまざまな趣向を加えて、多様な場面を作り上げてきました。



歌舞伎の役柄を『フィレンツェに燃える』に当てはめると、



侯爵家の長男で、聡明で高潔な貴公子アントニオ(柚香)は「実事よりの二枚目」


酒場の歌姫から貴族の未亡人となった、後妻業の女パメラ(星風)は「傾城」


アントニオとは対照的に、奔放な性格の侯爵家の次男レオナルド(水美)「色事師寄りの二枚目」


アントニオを慕う貴族令嬢アンジェラ(星空)は「赤姫」(ドレスが最初は全身赤、だんだん赤色の面積が減っていく)


パメラの元カレで、パメラが結婚相手を殺した証拠を探るオテロ・ダミーコ(永久希)は
「敵役寄りの二枚目」



これらの登場人物たちが



フィレンツェの夜会での、主要人物たちの「対面の場」


悪女ぶったパメラの「啖呵きりの場」


実直なアントニオがパメラを「口説きの場」


奔放なレオナルドがパメラに「偽りの色恋仕掛けの場」


パメラの心ならずも「愛想尽かしの場」


子供扱いされた令嬢アンジェラがアントニオと「口舌(くぜつ=痴話げんか)の場」


パミラを付け狙うオテロ・ダミーコとレオナルドの「殺しの場」


パメラが唐突に亡くなり、突然訪れた不幸な状況に兄弟が涙を流し、手を取り合い嘆き悲しむ「愁嘆場」


等の場を演じている、


ドレスを着た歌舞伎


だと思えば、面白かったです。


遠い西洋を舞台にしていても、宝塚は日本の芸能であり、柴田先生は日本の劇作家なんだなあ、と再発見することができました。