宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

香川照之の歌舞伎を見た正直感想「ヤマトタケル」編




『ヤマトタケル』ダイジェスト映像第2弾



大阪松竹座6月公演 スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』ダイジェスト舞台映像


香川照之の父である三代目市川猿之助が、古典歌舞伎とは異なる斬新な演出で歌舞伎界に新風を巻き起こした「スーパー歌舞伎」シリーズの第1作、神話に登場する英雄・ヤマトタケルを主人公とするスペクタクル歌舞伎「ヤマトタケル」。



大阪松竹座で、父・市川中車と息子・市川團子が、父帝と子・ヤマトタケル役で共演するのが話題の舞台を鑑賞してまいりました。



あらすじ


神話で伝えられる「ヤマトタケル」という存在は、大和朝廷が全国に勢力を広げていく過程で、おそらく皇族将軍として戦った複数の皇子たちのエピソードや、各地の英雄伝説を統合して作られたキャラだと考えられています。


古代の日本、大和朝廷の時代。


天皇(中車)には、


先妻の子 


兄・大碓命(オオウスノミコト 團子)
弟・小碓命(オウスノミコト 團子2役)



後妻の子どもたち


がいた。


父は、最近家族の朝食の場に出てこない兄について、弟に


父帝:「弟のお前から、兄さんに食事の席に来るように教え諭しなさい。やさしくな。」


弟が兄を説得に行くと


双子の兄・大碓命(オオウスノミコト):「父は後妻の子どもに皇位を継がせようとして、先妻の子である俺たちをうっとおしく思っている。


「俺は、やられる前に父を殺そうと思っている」


小碓命(オウスノミコト):「兄さん、謀反はやめて!」



小碓命(オウスノミコト)は兄を止めようとしてもみ合いになり、誤って兄を殺してしまう。


次の日、朝食の場


帝:「お兄ちゃんはどうした。」


小碓命(オウスノミコト):「兄を殺し、手足を掴んでもぎ取り、薦(むしろ)に包んで川に投げ棄てました」


父帝:「は!?兄を殺しただと!お前は死刑だ!」


と怒り狂う。


結局、重臣たちの説得により


父帝:「そなたに、大和朝廷に従わない九州の熊襲(くまそ)族の征伐を命じる!平定するまで帰ってくるな!」


実質の死刑宣告にも等しいが、小碓命(オウスノミコト)は単身九州に向かう。


女装して熊襲のボスのタケル兄弟の元に忍びこみ、油断させてだまし討ちに成功。


その勇気を称えた熊襲タケルに、「これからお前がタケルの名を継いでくれ」と遺言され、「ヤマトタケル」を名乗るようになる。


父に認めてもらおうと大和の国に戻ると、休む間もなく次は東日本に征伐に行くよう命令される。


父は、自分に死んでほしいと願っているのだな…


父さん、僕を認めてよ。


父さん、僕を褒めてよ。


ヤマトタケルが、戦いにつぐ戦いの修羅の果てに見た風景は...



感想


感想まとめ:香川照之さん、父親との確執を超えて、素晴らしい息子さんを育てていただいて、ありがとうございます。


香川照之は両親が離婚し、父に会いに行くと


「あなたは息子ではありません。したがって私はあなたの父でもない」


「あなたとは今後、二度と会うことはありません」


と完全に拒絶されたというエピソードを語っています。


恩讐を超えて息子を連れて歌舞伎界入りし、一門のリーダーであったいとこの四代目市川猿之助が大変な事件を起こし、息子・市川團子が「ヤマトタケル」役を引き継ぎました。


香川照之のファミリーヒストリーと、古代の神話とが奇しくも重なり合う。スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」が新作歌舞伎から「家の芸」になるとは、こういうことなのか。


市川團子さんは、まだ若干二十歳。宝塚なら中卒研3での新人公演初主演レベルの若者です。


歌舞伎の「型」を表現する技術など、まだまだ粗削りで発展途上なところはあると思いますが、身体の線が細く清廉な立ち姿で、役の心理の読み込みと表現の工夫には目を見張るものがありました。


物語冒頭に


父から「お兄ちゃんにやさしくしてやれ」と言われて


「やさしくしてきました(兄を殺してバラバラにして川に捨てました)」


と答える場面があります。


現代人の視点から見ると、兄を殺すエピソードは、その人物像や心理を解釈するうえで大変重要な場面だと思うのですが、


スーパー歌舞伎版の演出では、兄と子の対峙の場面が


「市川團子が兄と弟1人2役、早変わりで演じる趣向をお楽しみください」


と、いかにも歌舞伎な演出の趣向が前面に出過ぎて、物語のテーマや人物の心情がちょっと引っ込んでしまうきらいがありました。(この傾向は物語全体に感じられました)


ヤマトタケルは、父の愛を乞い、父の理想の息子になるために邁進する悲劇の英雄か。


兄を殺し、先住民を熊襲や蝦夷と呼び殺戮した、サイコパスの侵略者か。


最近、クリストファー・コロンブスへの評価が「英雄」から「侵略者」へと変わりつつあるようです。


人物には、複数の側面があるのがあたりまえ。


市川團子さんがスーパー歌舞伎版の「ヤマトタケル」で演じた人物像は、セリフ回しなどヒロイックにうたいあげ過ぎないのが良い。


父帝への渇愛と憎しみに引き裂かれる思いや、兄殺しで宿命的に負った罪の意識、大けがをし死を前にして、自身の衰弱にうろたえ、現実を受け入れられない葛藤など、場面場面の心理描写が的確で、観客が自身の体験に引き寄せても納得できるものでした。


179㎝の長身で、手足が長くて舞台の真ん中で映えるスタイル!


ラスト、宙乗りのために白鳥のような羽の衣装で出てきた時は、大階段のトップスターの「出た!」オーラがありました!