『琥珀色の雨に濡れて』感想
舞台は第一次世界大戦後、爛熟期のパリ。
戦場から帰還し、リハビリを経て民間パイロットの事業を起こそうと奔走する貴族の青年クロード(凰月)、
社交界を森の鳥のように飛びわたるシャロン(天紫)、
クロードの婚約者フランソワーズ(白河)、
シャロンに想いを寄せる、ジゴロダンサーのルイ(水美)。
4人の男女が織り成す心の機微を繊細に謳いあげた物語。
・・・
管理人:最近まで、息子の夏休みの宿題の読書感想文の手伝いをしていたんだけどね。
紅子:毎年、夏の終わりの定番の導入だわね。
管理人:「進研ゼミ」の教材によると「読書感想文を書くための読みのテクニック」は、
・プロファイリング読み
・共感読み
・ズキュン言葉読み
なんですって。
紅子:全ツのお客って、普段から舞台に年100回以上通うような人ばかりじゃないよね。
人生で滅多に無い観劇体験で、
「宝塚の芝居を見たけど、よくわからなかった。」
感想をSNSにあげたいけど、芝居の見どころとかよくわからなくて
「ヤバい!」
「顔ちっさ!」
「脚長っ!」
「ダンスキレッキレ!」
ばかりになっても、つまんないじゃない。
管理人:その点、柴田作品って
・社交界や夜の世界の登場人物たちの、意味深で時に心うらはらなセリフについて、脇役たちがフォロー解説してくれるので、客もプロファイリングしやすい。
・革命や戦争でない平時のパリを舞台に、普遍的な男と女の心理の綾にフォーカスし、観客の大多数の女性の価値観や道徳観に近そうな立ち位置のフランソワーズの視線を入れることで、
物語に「自分なら...」と没入しやすくなる。
「私の前で、私を通り越した言葉を交わすのはもうやめて」
「悲しいよね 人生は、、、セ・ラ・ヴィ」
「また、は無いのさ」
など、真似して使ってみたくなるズキュン言葉がたくさん!
演出面でうまいなと思ったのは、主人公の「タンゴはうまく踊れない」設定ね。
この舞台で流れるタンゴは、「コンチネンタル・タンゴ」
アルフレッド・ハウゼ・タンゴ・オーケストラ コンサート2019
「コンチネンタル・タンゴ」とは、「本場」の尖がった野性の匂いがするアルゼンチン・タンゴを離れて、ヨーロッパで作られた「甘~いムード音楽」なタンゴなのよ。
冒頭の「ジェラシー」はデンマークで作られたコンチネンタル・タンゴなの。
劇中でも
ジェラシー(Jalousie)
ラ・クンパルシータ(La Cumparsita)
奥様お手をどうぞ(Ich kusse ihre Hand, Madame)
聞かせてよ愛の言葉を(Parlez-Moi D'amour)
黒い瞳
紅子:タイトルからして「甘い」というより「甘~い」がポイントなのね。
管理人:
男だらけの戦場から帰り、タンゴをうまく踊れないクロード(凰月)、
男女の夜の社交の世界で「お仕事」でタンゴを踊って、気まぐれに朝の森でタンゴを踊るシャロン(天紫)、
おそらく女子校育ちのお嬢様で、タンゴを「お稽古事」として習うクロードの婚約者フランソワーズ(白河)、
男女の夜の社交の世界で「お仕事」でタンゴを踊って、業界のルール破りでタンゴの世界を追われるルイ(水美)。
紅子:「コンチネンタル・タンゴ」への親和性や距離感がキャラ設定に生かされているのね。
管理人:初演(1984年)の頃に比べたら、女性の生き方の選択肢も増えて、クロードの除隊後の人生の目標迷子や、
シャロンの「幸せになりたがらない、うまくいくと壊したくなる心理」も自分事になってきたよね。
紅子:再演を繰り返して「このお話も、もうくたびれて来たなあ」と思う柴田作品もあるけれど、『琥珀色の雨に濡れて』は宝塚歌劇団150周年の頃にも再演されてそうね。