宝塚 ライビュ専科の地方民のブログ

宝塚を「好き」という気持ちを因数分解してみたい、という思いで綴っています

輝く!?宝塚ライビュ専科大賞2023 1位は!



管理人:気が付けば激動すぎて、2023年9月以前の記憶がコロナ禍前のように遠い、激動の年の瀬ももうすぐ終わり。


紅子:ちょっと悩んでいたのですが、やっぱり「輝く!?宝塚ライビュ専科大賞」を開催します!!



管理人:選考対象は、2023年1月~12月に宝塚大劇場で公演された本公演のうち、いわゆる「お芝居」「1本立てミュージカル」作品とします。


(『PAGAD(パガド)』~世紀の奇術師カリオストロ~は、観劇できなかったため割愛させていただきます)


管理人が書きなぐったポエムな観劇感想記事とともに、まず2位から8位を発表し、最後に1位を発表するランキング形式で1年を振り返ります。


管理人は地方民ゆえ、ほぼライブビューイング、もしくは配信で視聴した感想です。


紅子:作品をランキング付けしないで、大賞のみ発表でいいじゃない。


管理人:そんなご意見もあることは重々承知しております。


あくまで個人の感想ですので、ご理解いただける方のみ!こっそりお覗きください。


宝塚の舞台に何を求めるか、は人によってさまざまな基準があり、そこが宝塚の奥深さだと思います。


役者で見るか、作品で見るか。


「とにかく贔屓がカッコよければ名作」


「ストーリーは多少アレでも、上手い歌をたくさん聴けて耳が幸せだったから名作」


楽しみ方は人それぞれ。


私は見たい映画を役者で選ぶ派か、監督で選ぶ派か、どっちかと言うと監督で選ぶ派です。



私はランキング付けにあたっては、作品の芸術性、独創性、脚本の構成の分かりやすさ、演出効果の伝わりやすさ、出演者の舞台人としての表現など複数の要素を考慮したうえで、


最終的には、


「主役の行動が物語を動かす原動力となっているか」


を基準に決めさせていただきました。



(「宝塚の舞台は主演者を輝かせるためにある」と思っておりますので、先生の題材への思い入れが表面に出過ぎて、肝心の人間ドラマが?となってしまった作品は、座付き作家としていかがなものか、と感じております)


私の独断と偏見を基にした、超個人的なランキングであることをお断りさせていただきます。


では、さっそく発表させていただきます!




第2位『1789 -バスティーユの恋人たち-』



紅子:おや、2位が『1789』ですか。


管理人:『ベルサイユのばら』を過去のものにしていたら、文句なく1位でした。


紅子:そこはハードルが高すぎ…


管理人:音楽、礼真琴はじめ出演者の歌唱は文句なく素晴らしかった。


ただ、ストーリーが、フランス革命に至る経緯、格差社会、マリーアントワネットの覚醒…結局、


「教科書を読んだらわかる」


お話を舞台で再現している感があってねえ。




第3位『鴛鴦歌合戦(おしどりうたがっせん)』



宝塚は今や海外ミュージカルや「少年ジャンプ」系の大作ばやり。ディズニー映画もポリコレとか多様性とか、「この作品を通じて、SDGsと多様性への理解を…」ばっかり。


こういう、なーんも考えずに楽しめる、素直になれない恋人たちの恋の行方にやきもきする昭和の王道少女漫画的な展開の舞台は久しぶりでうれしかったです。


ヒロインのラストのあっと驚く行動に、現代人が見ても観劇後考えさせる要素があるのもいいですね。



第4位『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル』
-Boiled Doyle on the Toil Trail-



実は3位を鴛鴦~と迷ったのです。


学校の図書室でシャーロック・ホームズシリーズを読んで育った管理人には、原作(&作者と最初の妻)への愛溢れる小ネタたくさんで、絶秒にツボる作品なのですよ。


「作者の題材への愛が出過ぎて、元ネタを知らないとドラマの展開に?となる作品」の感があり、この順位とさせていただきました。


ホームズが作品世界を飛び出して作者に物申す!というアイデアは良かったのですが…その後の展開にもう一工夫あれば、3位でした。





第5位『応天の門』
-若き日の菅原道真の事-


どうせ大劇場で上演するなら、史上有名な平安朝クライムミステリーである、


応天門が炎上!


黒幕は誰だ!


を見たかったです。



第6位『うたかたの恋』



『うたかたの恋』は、大劇場で『エリザベート外伝』として息をつめて見つめるより、


旅行がてら遠征した全ツ会場で


「もしも目の前に白い軍服の皇太子さまが現れて「君を心から愛している」と言われたら…やだ、どうしよう…」


気分で見るほうがいいです。



第7位『カジノ・ロワイヤル ~我が名はボンド~』



2時間以上かけて上演するには、スパイ要素も恋愛要素もスカスカ。


95分にカットしてちょうどよさそうで、でもそれでスピーディな展開にはなれど、より面白くなる予感もしないのです小池先生。



第8位『Lilac(ライラック)の夢路』
-ドロイゼン家の誇り-


管理人:謝先生、事件が舞台で起きていません。


紅子:結局、ドイツに鉄道は開通したんだっけ


管理人:そこがどうでもよくなる「ドイツ鉄道物語」って何ですか。



そして!


第1位『フリューゲル -君がくれた翼-』



もはや世界史の教科書の1ページになった『ベルリンの壁崩壊』を題材にした物語。


教科書を読んだだけではわからなかった、壁の「向こう」で生きてきた人々の想いが歴史のエンジンを動かす原動力となり、蓄積した熱量は、「第9」のメロディーに勇気づけられて壁を越えてあふれ出す。


紅子:「第9」って、毎年12月になると「今年も終わりねえ」と思って聞いているけれど、こんなにすごい曲だったのね!


管理人:私は、こういう作品を求めていたの!




というわけで、輝く!?宝塚ライビュ専科大賞2023でした。


管理人は2023年8月以来宝塚歌劇を生観劇できていないので、2024年こそは、宝塚の舞台を生で見るのが目標です!

ミュージカル『ベートーヴェン』感想







『エリザベート』、『モーツァルト!』、など、日本ミュージカル界でも屈指の人気作品群を手掛けてきたミヒャエル・クンツェ(脚本/歌詞)とシルヴェスター・リーヴァイ(音楽/編曲)のゴールデンコンビによる、ミュージカル『ベートーヴェン』を配信で視聴いたしました。


『モーツァルト!』では、モーツァルトが作曲した曲を使わずに、自身の才能に殉じた天才の苦悩に迫る挑戦作でした。


『ベートーヴェン』は、偉大な作曲家が聴覚を失う直前に出会った「不滅の恋人」とのエピソードをメインにした物語です。


作品中には、彼がオーケストラやピアノ演奏用に作曲した楽曲をボーカルで歌えるように編曲したものがふんだんに使われています。


※1月1日(月・祝)23:59までアーカイブ配信あり。詳細は上記リンクからご確認ください。


「悲愴」

ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第8番 「悲愴」 - 第2楽章[ナクソス・クラシック・キュレーション #切ない]


「月光」

ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第14番「月光」:第3楽章[ナクソス・クラシック・キュレーション #カッコイイ]


「英雄」、



ベートーヴェン: 交響曲第3番「英雄」:第4楽章[ナクソス・クラシック・キュレーション #元気]



「運命」

ベートーヴェン: 交響曲第5番「運命」:第1楽章[ナクソス・クラシック・キュレーション #ゴージャス]



「田園」

ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」 第1楽章[ナクソス・クラシック・キュレーション #元気]


「皇帝」

ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第5番「皇帝」:第1楽章[ナクソス・クラシック・キュレーション #カッコ良い]


「エリーゼのために」

ベートーヴェン/エリーゼのために pf.Vincenzo Balzani



「第九」

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」:第4楽章[ナクソス・クラシック・キュレーション #ゴージャス]/Beethoven:Symphony No. 9, Op. 125, "Choral" IV.




井上芳雄、花總まりと「濃いラブストーリー」 ミュージカル「ベートーヴェン」で共演、「終わるまでには“花ちゃん”と呼べるんじゃないかな」(会見/ミヒャエル・クンツェ シルヴェスター・リーヴァイ)



感想:わかりやすさは大事


いやーっ、普段インストゥルメンタルで聞いている「公共の音楽」を、物語の中で、登場人物たちの「私だけの秘密の思いを打ち明けるソング」として歌詞をつけて歌うのを聞くと、


「この曲は2023年に作曲された」と言われても納得しそうな新しさがあり、250年を経て色あせない楽曲の強さに感服いたしました。


ベートーヴェンの苦悩多き生涯については、今でも学校の音楽の時間に習いますし、この間息子が使っている国語の問題集を見ると、彼が幼少期の父親からの虐待を乗り越えて、作曲家として成功するまでのエピソードが素材として使われていました。


彼の人生を舞台化しようとすると、みなさまご存じ


【父からの虐待】、【弟、そして甥との確執】、【貴族からの独立】、【聴覚喪失の苦悩】といった要素は外せませんし、


フランス革命後の混沌のヨーロッパを舞台に、ナポレオンへの憧れと失望、ゲーテとの友情と確執、といった超大物との人間模様があって、


響け、シンフォニア!


となりがちですよね。宝塚で2021年に上田久美子氏作・演出で上演された『fff』も「難解だ」と言われておりましたね。




【公式】<サンプルムービー>f f f -フォルティッシッシモ-('21年雪組・東京・千秋楽)



雪組公演『f f f -フォルティッシッシモ-』『シルクロード~盗賊と宝石~』初日舞台映像(ロング)








オペラには「オペラセリア」(厳粛な歌劇)や「オペラブッファ」(喜歌劇)などいくつか種類があるそうですが、


ミュージカル版『ベートーヴェン』は、


「ソープオペラ」


ですね。


【父からの虐待】【弟、そして甥との確執】【貴族からの独立】【聴覚喪失の苦悩】の要素もありますが、


物語の8割くらいを、ベートーヴェン(井上芳雄)と、美しい既婚女性アントニー・ブレンターノ(花總まり)との


【叶わぬ恋】


に全振りしています。


舞台では、恋が終わってすぐに、彼の死のシーンになるのです。


個人的には、ソープ・オペラは第1幕で区切りをつけて、第2幕は別のテーマに焦点を当ててもよかったような気もするのですが、


日生劇場にミュージカルを見に来る客は、ベルリンフィルのコンサートに行って


響け、シンフォニア!


を求める客とはまた指向が違うでしょうからね。


井上芳雄氏の、東京藝術大学音楽学部声楽科卒のクラシック発声を存分に生かした朗々とした歌唱はお見事!


花總まりさんは、クラシック楽曲を歌うには声量など課題はあるのでしょうが、「役者として心情を歌う」凄みは図抜けていたと思います。


彼女は数々の「ヒロイン」「女帝」的な傑出した個性の役を演じてきましたが、アントニー・ブレンターノ役は序盤、愛のない結婚をして、高圧的な夫に怯える「平凡な女性」がはまっていて、「花総まりも、さすがに華が…」と思ってしまったのですが、


ベートーヴェンとの恋に浮き立ち、「月光」に祈るメルヘンな場面になると、どんどん若返り、表情に生気が満ちる「舞台のマジック」が画面越しにも伝わるのがすごかったです。

かっこいいトップだよ!彩風咲奈







タカラヅカ・ゴシップに揺れる中、現役のトップさんが報道機関のカメラの前に立ち、異例の緊張感に包まれた退団会見だったと思いますが、記事からもお人柄の伝わる心のこもった会見でしたね。


彩風さんは超絶スタイルに抜群のダンス力、歌唱も及第点の優等生。


お芝居については、カメレオン役者とか憑依型というよりは、「彩風さんはこういう役作りで演じているのだな」という、洋服でいう型紙とか縫い目とか、ちょっと裏地が透けて見えるところがありました。


私は彩風さんのお芝居、好きでしたよ。


たしかに、器用ではなかったかもしれません。


昔の巡礼のお坊さんが、一宿一飯のお礼に大ナタでばばっと彫って置いていった仏像のような、おおらかで、でも役の芯はしっかり掴んだ演技でしたね。


印象的なお役は…「俺たちに明日は無い」という刹那よりも、『 CLYDE&BONNIE 』でなく『BONNIE & CLYDE』とパートナーに名前を先譲る情の深さが印象的だったクライド。


子どもの頃からアスファルトとコンクリートジャングルで育ってきた人には、ちょっと演技力では醸し出せなそうな、田んぼの土の匂いのする『夢介千両みやげ』の夢介。


自分が創作したキャラに人生を乗っ取られかけるトホホな作家を演じた『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル』


少年ジャンプ連載作とかザ・歴史大作をカリスマ性でねじ伏せるよりも、どっちかというとカルト的に埋もれていた作品を掘り起こして復活上演したような演目でのお役が印象的です。

帆純まひろは惜しかった 花組退団者のお知らせに




下記の生徒の退団発表がありましたのでお知らせいたします。   


花組

舞月 なぎさ

柚香 光 -すでに発表済-

帆純 まひろ

星風 まどか -すでに発表済-

愛蘭 みこ

美里 玲菜


2024年5月26日(花組 東京宝塚劇場公演千秋楽)付で退団    



帆純まひろも退団するのですね…




96期~99期あたりは、95期神7に話題が集中しがちで、新人公演を卒業後はコロナ禍で露出が減り、お茶会というファン集めのツールまで奪われてしまった。


後輩にあたる100期以下は、新人公演やバウ公演まで配信されるようになって顔を売るようになった。


どうにも歯痒い状況が続く中、ついに帆純まひろ与えられた主演の機会が


バウ・ワークショップ『殉情(じゅんじょう)』


でした。


私は帆純まひろの芸風には、マゾヒズムというほどでもないのですが、「苦痛嗜愛(しあい)」の傾向があると思っています。彼女の顔が苦痛に歪むとき、私の心は同調して傷みつつ、ひそかに甘やかに疼く。


『鴛鴦歌合戦(おしどりうたがっせん)』 で、「青葉の笛」エピソードの 、追い詰められて、敵に


「お前のためには良い敵だ、名乗らずとも首を取って人に尋ねよ。すみやかに首を取れ」


と首を差し出した悲劇の武将・平敦盛役の、清らかに澄んで冷たい美しさは絶品でした。



帆純まひろが演じた佐助は、サディスティックな盲目の師匠春琴に献身的に仕え、春琴の容貌が激変した際には自らの眼を針で突いて、「ほら、私も見えなくなりました」と、師匠と同じ世界の住人となった人。


「猟奇的なレッスンを私にして」


的なお話で、現代のSNSで「いいね!」「わかる!」はまずつかなそうな行動をとるキャラです。


でも、帆純まひろの肉体から被虐によって漏れ出るエロスが、佐助の選択に「彼ならありえる」というリアリティを与えていたと思います。



和希 そらDS『Vie.』が今年のラスト公演で良かった



宝塚での「メリークリスマス」は、「戦場のメリークリスマス」のような状況になってしまいました。



有名なあの音楽は、実はとてもヘヴィなテーマの主題歌だった

映画『戦場のメリークリスマス』新予告



関西圏の宝塚ファンの中には、もう3か月以上、生の宝塚の舞台を見ていない方もたくさんいらっしゃるでしょう。


2023年最後の宝塚の公式活動となった和希 そらDS『Vie.』の配信視聴数は、相当なものになったのでは?


世間が「メリークリスマス」に沸き立つ中、あえて宝塚歌劇団に課金して「宝塚の今」に触れたいファンがいる。


和希 そらDS「『Vie.』の配信は、奇しくもいち路線ジェンヌの退団餞別DS」の枠を超えて、一連の報道に傷つき、飢えた宝塚ファンが、それでも宝塚に寄せる願い、祈りを受け止める機会となったのではないでしょうか。



和希 そらは、路線ジェンヌの中では歌唱とダンスの芸の確かさで礼真琴と双璧で、


礼真琴の芸風は「芸の神様に心身を捧げる儀式」を参列者として拝見するような荘厳さがあるのに対し、


和希 そらは、確かな技巧を駆使しながらも、肩の凝らない軽い歌唱&ダンスなのが良いですね。


前半のJーPOPクリスマスソングメドレーなど、他のジェンヌではクラシック志向のヅカ歌唱の重さが、JーPOPのはじける軽さの邪魔をしそうなところですが、和希 そらは楽曲に要求される”軽さ”をきちんと表現できる。


後半の宝塚メドレーでは、元のお芝居で2時間かけて醸成された想いを3分間で打ち明けるソングの熱量をきっちりこってり再現できる。


和希 そらの、高度なテクニックを駆使して「重さ」を感じさせない芸風を生かし切った野口 幸作氏の演出も冴えていたと思います。